弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年4月19日

超一極集中社会アメリカの暴走

アメリカ

(霧山昴)
著者 小林 由美 、 出版  新潮社

アメリカの暴走は恐ろしい限りです。シリアへトマホーク・ミサイルを撃ち込みましたが、明らかに国際法に違反する犯罪行為です。ところが、日本のマスコミは問題にせず、シリア政府軍がサリンを使って子どもたちが死んでいる事態を看過できないと考えたというトランプの言い分だけを大きく報道しています。
仮にシリア政府軍が残虐行為をしていたとして、なぜアメリカ軍がミサイルを撃ち込んでいいのでしょうか。それだったら、北朝鮮が収容所内で自国民を虐待しているとして、平壌市内にアメリカ軍がミサイルを撃ち込んでもいいことになります。いくらなんでも、それはないでしょう。
なぜ、そんな暴走をアメリカはするのか。それは、アメリカの支配層が超大金持ちだけからなっていて、それをプア・ホワイト(貧乏な白人層)をふくめて多くのアメリカ人が他人事(ひとごと)のように相手し、支持しているからです。
アメリカの上位0.01%、1万6500世帯の平均年収は29億円。上位0.1%、16万世帯、60万人でみると6億円。上位1%、149万世帯は1億2600万円。残る99%の国民の所得は減り続ける一方である。むしろ、借金のシェアを増やしている。
アメリカのエリート大学に入る間は一段と狭くなっている。エリート大学に入るためには、家族ぐるみで、長年にわたって特別な努力が必要となる。ユダヤ人と中国人がそれをこなしている。エリート大学に入学するには、勉強が出来るだけではダメ。スポーツやボランティア活動そしてパーティ、さらには大学への寄付など、簡単ではない。
エリート大学の授業料は高い。スタンフォード大学は年に470万円で、このほか学生寮に入ると、700万円はかかる。卒業までに3000万円を要する。
アメリカでは、授業料の高さは、大学の質の高さと考えている人が多い。いやな国ですね。ヨーロッパを見習ってほしいです。
アメリカでは、大学に進学する人の60%以上が学生ローンを利用している。この負債は学生が自己破産しても免責されず、債務が消えることはない。
アメリカの製造業が回復しているのは、シェールオイルやシェールガスの発掘が急増し、石油製品の製造も増えているため。
ヘッジファンドは運用資金の2%を手数料としてもらうほか、別に運用益の20%を成功報酬としてもらう。したがって、ヘッジファンドに投資すると、1年目には元金が減っている可能性が高い。
金融機関の多くは、預金者や事業者、経済、社会に対するサービスには関心がない、また、それを犠牲にしてまでも自らの利益追求に走っている。
今では資本市場は、資金をもつ人たちのカジノと言うのが実態に近い。したがって、「投資ファンド」ではなく、正直に「浪費ファンド」とか「ウォール街雇用ファンド」、「分の悪いギャンブルファンド」という実態を反映した名称で呼ぶべきだ。
グーグルはメールを全部保存していて、コンピューターで、読みとって、さまざまな情報を抜き出し、分析して、ターゲット広告に利用したり、データとして販売している。
グーグルの売上7兆5000億円(2015年)の大半は、データを活用した広告宣伝収入と、データを販売した売上収入である。
フェイスブックは情報資産が1兆8000億円の売上収入をもたらした。
データ量がこれだけ膨大になり、そのデータの販売がビックビジネスになったのは過去10年内のこと。
世界のインターネット広告は15兆1600億円で、グーグルは44%、フェイスブックは8.5%、バイドウは5.8%。この3社をあわせると、6割近い58.3%のシェアを占める。
この本は、ネット情報を売り物にしている企業が巨大な利益をあげていますが、ネットで情報をじっとみていても考える力はつかないと警告しています。たしかに、というか、なるほど、そうだろうなと私は思いました。
事実に即した、大変に迫力のある本でした。ぜひ、ご一読ください。
(2017年3月刊。1500円+税)

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