弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年4月 6日

偽囚記

司法


(霧山昴)
著者 鬼塚 賢太郎 、 出版  矯正協会

東大法学部生がニセの看守になり、また囚人として刑務所に入ったときの体験記です。
ときは戦後まもなくの昭和22年(1947年)のことです。団塊世代の一人である私の生まれる前年です。教授になったばかりの国藤重光教授が志願囚をつのったのでした。4人の学生が応じ、そのうち3人が実際に看守となり、また、囚人となって刑務所に入っています。
場所は横浜刑務所です。横浜修習だった私も横浜刑務所のなかに見学者として入りました。高い塀があり、模範囚が塀の外で花壇の手入れをしている光景を思い出します。
しかし、学生が3人もニセ囚人になるというのは容易なことではありません。いったい、どんな犯罪をしたことにするのか、家族や出身地、そして当時なら兵隊経験はあるのか、どこに行ったのか、嘘をつき通して、つじつまを合わせなければいけません。
囚人から次第に疑われていく様子がリアルに描かれています。要するに当局から送り込まれたスパイではないかと疑われるのです。それが確定したら、ひそかにリンチされるのは必至です。そのとき、本当に誰かが助けてくれるのか・・・。
体験者は、無事に「出所」したあと、国藤教授に「もう、あとの人には、こういう体験をすすめるようなことをしないで下さい」と迫ったそうですが、それもなるほどだと思いました。
罪名はPCとされています。要するに、進駐軍(アメリカ軍のことです)の物資の不法横流しをしたというのです。それで刑期は5年。
刑務所内ではタバコを吸っていた。その火種はどうしていたか・・・。
ホウキの柄と綿くずを使って、ゴリという発火の方法を利用していた。
今から30年ほど前でしたか、福岡刑務所でピストルを製造していたことが発覚したことがありました。戦後間もなくの刑務所では、それこそいろんなことがあっていたことでしょう。タバコを吸っているというのは、20年ほど前の刑務所の話としても聞いたことがあります。今はないのでしょうか・・・。
それにしても、この体験をした著者が、裁判官になり、機会の許す限り矯正施設を訪問していたというのにも感銘を受けました。やはり、刑事裁判では行刑の実際を知ることも大切だと思います。裁判員裁判を担当する人には、事前に刑務所見学もしてもらい、その実情の一端を知ってほしいものだと思います。いかにも貴重な体験記です。
先日の本(原田國男『裁判の非情と人情』)に紹介されていましたので、早速ネットで注文して読んでみました。
(昭和54年3月刊。850円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー