弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年3月18日

史上最高に面白いファウスト

ドイツ

(霧山昴)
著者 中野 和朗 、 出版  文芸春秋

ゲーテの「ファウスト」は古典的名作だというので、私も一度だけ読んでみましたが、あまり面白いとは感じられませんでした。
この本は、83歳になるドイツ文学者が「ファウスト」の面白さをたっぷり解説してくれています。なるほど、そういうことだったのか、それなら、もう一度よんで、面白さをしっかり認識させてもらおうと思ったことでした。
「ファウスト」の面白さを知るためには、ゲーテその人をよく知る必要があるようです。
ゲーテは22歳で弁護士を開業しました。しかし、実際には、弁護士業に身を入れることなく、小説を書いていました。
ゲーテの父親は法学博士でしたが、教育熱心で、ゲーテに家庭教師をつけ、勉強だけでなく、美術、音楽、ダンス、乗馬までデーテはこなすようになりました。英語、フランス語、イタリア語を習得し、詩作をする少年として知られました。
ところが、長じてからは父親の期待を裏切り、法律の勉強を嫌って、芸術や美術に関心を寄せるようになり、成績も素行も悪い学生になりました。
ゲーテは父親からライプツィヒ大学の法学部へ入学させられますが、自堕落で不健康な生活のあげく、健康を害しました。
ゲーテが弁護士になってから書いた小説は「若きウェルテルの悩み」でした。大変な反響を呼んでいます。その後、ワイマル公国の宰相として、活躍するようになりました。他方、ゲーテは、「ドイツの光源氏」と言えるほど、生涯に多くの女性を愛しています。
ゲーテがワイマル公国の宰相だったころ、フランス革命が起こり、その後、ナポレオン軍に攻め込まれています。
ラストシーンをふくむ「ファウスト」第二部は、ゲーテの遺言によって死後まで発表されなかった。なぜか・・・。
伝説のファウストは、最期は必ず地獄に堕ちることになっていた。ところが、ゲーテのファウストは我欲に固執し、いくつもの罪を犯し、悪魔の手におちた罪人であるにもかかわらず、天国へ救済される。これは当時の社会常識を大逆転する結末だ。
「ファウスト」の重要な主題のひとつは「自由」。人間をしばっている、あらゆる桎梏からの解放を希求する魂が、ゲーテに「ファウスト」を書かせた。
ゲーテは、自分自身も罪深い、出来そこないの男の一人であることを、自虐をこめて痛烈に批判し、かつて傷つけた女性たちに対し、許しと救いを求めた。この意味で「ファウスト」はゲーテの「人生の清算書」だと言うことができる。
ゲーテは、詩人、作家、哲学者、政治家、弁護士、自然科学者など多くの顔をもった、正真正銘の天才マルチ人間だった。
1832年にゲーテは82歳で亡くなったが、当時としてはずいぶん長生きした。
伝説上の人物と考えられていたファウスト博士には、実在のモデルがいる。ゲーテよりも300年前に生きていた。実在のファウストは、魔術師、降霊術師、占星術師、錬金術師であり、医師だった。近代自然科学の黎明期に生きた、科学者のパイオニアだった。そして、この科学に関心をもったファウストが、身のほど知らずにも人智をこえた力を手に入れようと悪魔と結ぶ、神の罰を受けるのだ。
このような解説とともに、この演劇台本を読むと、その奥深さを垣間見ることができて面白く感じられるのです。
それにしても、ゲーテって、たくさんの女性にもてもてだったようで、うらやましい限りです。
(2016年10刊。1300円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー