弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年3月 7日

民事裁判実務の留意点

司法


(霧山昴)
著者 圓道 至剛 、 出版  新日本法規

ひところ福岡地裁で裁判官だった著者(弁護士任官でした。今また弁護士に戻っています)による若手弁護士のためのハウツー本です。裁判官だった経験も生かして、とても実践的な本です。
ちなみに、著者の名前は、「まるみち むねたか」と読むそうです。なかなか読めない名前ですね。
この本には、100頁もの書式サンプルまでついていますので、その点からいっても、すぐに今日から参考にできる本です。
証人尋問心得という書面があります。この本では5頁にもわたる詳細な心得です。
「証言中はメモを見ながら答えることはできません。裁判官のほうを見て、回答して下さい。裁判官は、供述内容と同じくらい、供述態度を見ています。正面を見て、堂々と答えて下さい」
反対尋問については、「想定外の質問もあり得ます。よく考えたうえで、端的に答えて下さい。言葉尻をとらえられる恐れがありますので、できるだけコンパクトに答えて下さい。意図的に挑発してくることも考えられますが、決して熱くならないで下さい。常に冷静さを保ち、淡々と答えるようにして下さい。どうしても回答に困ったら、ちらっと私のほうに目をやって下さい。何らかの異議を出すなどの方法により、適宜、助け船を出すようにします」
うーん、どうでしょうか。私は、「そんなときには『分からない』と答えていいのです」とアドバイスしています。もちろん、異議を出すべきだと判断したら、立ち上がって異議を述べることもあります。
事前の証人との打合せは、私ももちろんしていますが、この本では証人テストを3回するとしています(事案が比較的単純な場合には1、2回ですが・・・)。
3回目の証人テストは、前日ないし当日午前中に行うといいます。しかし、私は、依頼者や証人に対して、「前日は記録など読み返すことなく、ぐっすり眠っておいてください」といつもアドバイスしています。前日読んで、「どう書いていたかな、ここは何と言うべきかな」などと考えて、一瞬の間があいてしますのが裁判官から変に勘繰られたりして良くないからです。
この本にも、尋問事項の丸暗記はまずいとしています。つまり、記憶にもとづいて自分の言葉で答えるというのが一番大切なことです。
裁判所に対して、マイナンバーの提供はすべきでないと断言しています。まったく同感です。
和解を成立させる形式として、受諾和解(法264条)、裁定和解(法265条)そして、「17条決定」(調停に代わる決定)がある。
私は裁定和解なるものがあることを知りませんでした。この本では、あまり使われていないということなので、少しだけ安心しました。
反対尋問では深追いしないことが肝要。敵に塩を送ってやるような有害無益な結果になりかねない、からです。
控訴権の濫用だと思えるようなら、控訴答弁書において制裁金の納付を命じるよう裁判に求めることが出きるそうです。私は、そんな条文があること自体を知りませんでした。これは申立権はないものの、裁判所の職権発動を促す目的です。
大変勉強になりました。著者のひき続きのご活躍を心より祈念します。
(2016年7月刊。4200円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー