弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年2月17日

密着・最高裁のしごと

司法


(霧山昴)
著者 川名 壮志 、 出版  岩波新書

いまの最高裁長官の寺田逸郎氏は、私と同じ団塊世代ですが、その父親である寺田治郎氏も最高裁長官をつとめています。はじめての二代目長官です。
寺田長官は、裁判官としての仕事をしたのは、わずか9年しかなく、26年ほど法務省で検事として働いていた。要するに立法作業をしていたのです。そして、その関係で国会、つまり自民党にも広く顔がきいたようです。ですから、たとえば夫婦同姓を事実上押しつけている民法の規定が憲法違反だと認めるはずもありません。自民党にたてつくなんて「恐ろしい」ことをする勇気は、はなからもちあわせていないのです。もっとも本人は、そんな発想がないでしょうから、「勇気」が欠如していると指摘されても、恐らくピンとこないことでしょう。
妻が夫以外の男性とのあいだの子を産んで、夫の子として戸籍にのっていた場合に、DNA鑑定の結果、100%近い確率で夫の子でないとされたとき、法律上の父子関係が取り消せるのかというケースで、最高裁は取り消せないとしました。
たとえ、夫と子のあいだに生物学上の血縁関係がないことがDNA鑑定で明らかになったとしても、夫が別居して妻が子どもを引き取って育てていても、民法の規定がある限りは、法律上の父子関係は有効であって、取り消せないと最高裁は判断したのです。
ええっ、科学的知見を裁判所は無視してしまうのか、そんなことは許されるのか、そんな疑問が当然におきます。
最高裁の多数意見は、それをおかしいと思うなら、法律を変えるしかない、法律どおりにしたほうがいい、という考えです。ところが職業裁判官のほうが、むしろ真実の父子関係を優先させるべきだとしたのでした。意外ですね。ただし、それは少数説だったわけです。
最高裁判所というのは、ときに、「最低」裁判所と非難されることがあります。私もときに、そう考えます。たとえば、砂川事件判決のとい、ときの最高裁長官だった田中耕太郎(軽蔑するしかない人間ですから、当然、呼び捨てします)は、裁判官の守秘義務なんてそっちのけで、駐日大使に会って、裁判官会議の内情をバラし、知恵を授かり、アメリカに迎合する判決を出すのに狂奔したのです。これはアメリカで公文書が公開されて事実として確定しているのに、今の最高裁は知らんぷりをしたままです。アメリカがからむことに反対意見を述べる(反省する)なんて、出来るはずもないということでしょう。
そして、最高裁の裁判官のなかで弁護士出身者の枠が昔は5人だったのが4人になり、今度は3人にまで減らされています。つい最近、学者が弁護士の肩書で就任したからです。
行政官出身は、あくまで国の味方です。学者も大半が勇気のない人たちで占められています。もっと気概ある弁護士出身の裁判官がいてほしいものです。最近では、滝井さんや宮川さんは本当にがんばりましたね。
マンガがイラストがたくさんあって、最高裁の内情の一端を知ることの出来る新書です。
欲を言えば、もう少し踏み込んで、官僚統制の元締めであり、弁護士任官の拒否など、厳しく批判すべき点が多々あることにも触れてほしいと思いました。
(2016年11月刊。840円+税)

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