弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年2月 7日

蒼天・青法協北海道支部50周年記念誌

司法

(霧山昴)
著者   青法協北海道支部、 出版  青法協北海道支部

 1966年(昭和41年)に創立した青年法律家協会北海道支部の50年に及ぶ活動の成果が一冊にまとめられています。A4サイズで360頁もあり、ずっしり重たい記念誌ですが、書かれている内容も日本の近現代史を深く掘り下げ、重量感たっぷりです。
題字を岩本勝彦弁護士が見事に揮毫していますが、「50周年を迎え、改めて熱き志をもって、蒼き天を仰ごうではないか、そういった意気込みを示す」と解題されています。
 1966年に結成されたときの会員は弁護士4人、裁判官3人、そして司法修習生13人、計20人でした。このころは、裁判官が青法協に加入することに何の問題もなかったのです。今では、裁判官が外部の団体に所属するのは、官製団体とでも言うべき日本法律家協会(日法協)くらいでしょうか・・・。
 2016年11月時点の北海道支部の会員は114人ですから、6倍に増えています。全員が弁護士です。ちなみに、「青年」というのは「志ある者、みな青年」という考え方によっていて、年齢制限はありません。
佐々木秀典弁護士(16期)は青法協「騒動」渦中のときの本部議長でした。1969年5月に議長に就任しています。この69年8月に、札幌地裁の平賀健太所長が裁判干渉をする「平賀書簡」を福島重雄裁判長に手渡しました。ナイキ基地設置のための保安林解除の是非が争われた長沼事件です。ここでは自衛隊の合意性が正面から争われて係争中でした。国の意向を体して裁判所が陰に陽に動くというのは、現在も残念なことに、よく見かけます。近くは、諫早湾開門訴訟における裁判所の動きがありますし、那覇地裁の辺野古をめぐる裁判も露骨でした。
 最新のテーマとしては札幌・大通公園におけるヘイトスピーチに対する取り組みがあります。ヘイトスピーチの内容は、あまりにひどくて、ここで文章にして紹介しようとは思いません。
 アパホテルの経営者の南京大虐殺否定本もひどいデタラメ本ですが、ヘイトスピーチにいたっては、ナチス・ヒットラーと同じで、罪なき人々を暴力的に抹殺しようとするものです。
 ところが、市民の一部にヘイトスピーチをしている連中に対して拍手を送る人々がいるというのです。残念としか言いようがありません。それでも、カウンターデモのほうが、はるかに上回っていて、それを若手弁護士たちが支援しているのは頼もしい限りです。
 上田文雄前札幌市長の言葉が紹介されています。いいスピーチです。
「雪の降るときはとりわけ美しい札幌を、差別の言葉で汚してはいけない。多様性を否定することは、わが身に降りかかってくる」
 ヘイトスピーチに反対・抗議する意思は「可視化」しなければならない。反対・抗議の意思を可視化しないと、ヘイトスピーカーたちは、みんなが心の中では自分たちと同じことを考えているのだ、それを自分たちは代弁してやっているのだと錯覚してしまう。
 なるほどですね。その場ですぐに反対の声を上げる必要があるのですね。反省させられました。
 北海道らしい事件も、いくつか紹介されています。
 まずは中国人強制連行・強制労働事件です。劉連仁氏は、13年7ヶ月ものあいだ、厳寒の北海道の山野を逃げまわり、そして生き抜きました。同じように中国から日本へ強行連行されてきた中国人労働者について、日本政府と企業の責任を追及した裁判は原告が43人となり、訴訟代理人となった弁護士は60人(当時の札幌弁護士会員317人の2割)になったのです。このほかにも年1万円の会費を納める賛助会員を募って、裁判を財政的にも支えました。
 劉連仁判決では、除斥期間の適用を排斥し、請求額2000万円全額を裁判所は認容しました。ところが、2004年3月23日の札幌地裁判決は、国家無答責と消滅時効を認めてしまいました。
 箕輪訴訟と「道産子訴訟」も特筆されます。自衛隊の海外派兵の差止を求める裁判です。自民党のタカ派代議士だった箕輪登氏を原告とする差止訴訟は原告が増えていき、その代理人弁護団には109人の弁護士が名前を連ねたのでした。
 最後にアイヌの先住権についての市川守弘会員の論稿には大いに学ぶところがありました。市川会員は結論として、これまで日本で使われてきた「アイヌ民族」という表現は、その有する権限(権利)の主体との関連では適切な表現ではなく、対内的主権ないし自主決定権を有する主体としての表現であれば、各地に存在したコタンでなければならない、としています。つまり、表現としては○○コタンアイヌが正しいというのです。アイヌのコタンにおける権限(権利)の回復を考えていった場合、各地のコタンの慣習、それにもとづくサケ捕獲等の自然資源の利用を権限(権利)として復活させることが重要だと強調しています。
私は「沖縄民族」なるものは存在していないと考えていますが、「アイヌ民族」は存在するように漠然と考えてきましたが、どうやら間違っていたようです。引き続き勉強してみたいと思います。
なにしろ、A4サイズ360頁もの大作ですので、簡単に持ち運びして読もうというわけにはいきません。それでも、なんとかひととおり読了しましたので、ご紹介します。
ちなみに青法協福岡支部はこれより先に、5年前に50周年誌を刊行しています。こちらは先輩会員42人の活躍ぶりを写真とともに紹介するもので、大変カラフルで読みやすくて、大好評でした。
(2016年11月刊。非売品)

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