弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年2月 1日

国家とハイエナ

アメリカ

(霧山昴)
著者  黒木 亮 、 出版  幻冬舎

 自分さえよければ、世の中がどうなろうと知ったこっちゃない。そんな人物がアメリカ大統領になりました。
トランプの就任演説の全文を日本語で読みましたが、あまりに低次元の話ばかりに涙が出そうになりました。そこには、そもそも政治は、弱者であっても人間らしく生きていけるようにするためにこそあるという考えは、みじんもありません。本当に残念です。
しかも、弱者が超大金持ち(ウルトラ・リッチ)を支持しているのです。きっと自分たちのために何か良いことをやってくれるだろうという幻想を抱いて・・・。悲しい現実です。
でも、日本だって似たようなものです。とっくに破綻しているのが明らかなアベノミクスをまだアベ首相は固執し、多くのマスコミが無批判にアベノミクスの効用をいまなお宣伝しているからです。
 この本は、破綻したアフリカや南米の国債を安く買って、欧米で勝訴判決をとり、タンカーや軍艦、外貨準備や果ては人工衛星まで差押して、投資額の10倍、20倍をむしりとる「ハイエナ・ファンド」(ハゲタカ・ファンド)の実際を暴いています。
 狙われた国家は、裁判を使った合法的な手段で骨の髄までしゃぶられ尽くすのです。もちろん、狙われた国家自体も、アフリカの大統領の多くが利権を私物化しているといったように、汚職・腐敗にまみれています。それでも、「ハイエナ・ファンド」に奪われなかったら、そのお金が福祉や民生用の国家支出にまわっていた可能性は大きいのです。
 「ハイエナ・ファンド」の手先になって動いているのが投資コンサルタントであり、弁護士たちです。
「法律書をもったハイエナ」は、額面7千万ドルの債権を800万ドルで買い、ペナルティや金利もふくめて1億2000万ドルを払えと訴える、それに、アメリカやイギリスの裁判所も結託している。ハイエナ・ファンドは、国や国際機関や金融機関の債務削減を利用してもうけている。これを規制しないと、せっかくの債務削減の意味が無に帰してしまう。
ハイエナ・ファンドによる訴訟の3分の2以上がアメリカとイギリスで起こされている。ひとたび外国で訴訟が起こされると、数十万ドルから数百万ドルにのぼる弁護士費用、旅費その他の経費がかかる。これは貧しい債務国にとっては、重大な負担となり、まともに戦える国はほとんどない。
ハイエナ・ファンドが投資したお金の何十倍という途方もない利益をあげる一方で、最貧国では一日1ドル以下で生活している国民が大半で、食糧や薬が買えなくて、子どもたちがバタバタと亡くなっている。
 債務削減を受けたアフリカ10ヶ国は、削減から4年間のうちに、教育予算が4割も増え、保健予算にいたっては7割も増えている。これを「ハイエナ・ファンド」は許さない。
 いわば吸血鬼のように他人の生命・健康を損なわせてまでして、自分たちの法外な要求を法の外形を利用して押しつけているのです。そんな悪どい商法に巻き込まれた人は哀れです。
 最後に、本作品は事実にもとづいているとの注記があります。読んでいくうちに気分が重たくなってしまいますが、それでも「ハイエナ・ファンド」と果敢にたたかっている人々も紹介されていますので、少しばかり救われもします。
(2016年10月刊。1800円+税)

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