弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年1月28日

籠の鸚鵡(かごのおうむ)

社会

(霧山昴)
著者 辻原 登 、 出版  新潮社

30年ほど前だったと思いますが、和歌山県の小さな地方自治体で収入役が商品先物取引(相場)に手を出して何億円も公金を横領(使い込み)したという事件がありました。その自治体は破産寸前になったと思います。相場の恐ろしさ、自治体の公金が個人によって簡単に引き出され、横領・使い込みによって自治体財政が破綻するという前代未聞の事件でした。
この本は、先物取引(相場)ではなく、暴力団が背後にいて色仕掛けで和歌山県の小さな町の出納長が陥落し、あられもない姿を写真に撮られて、それを恐喝の材料とされ、公金を使い込んでいくというストーリーです。
こういうことは、いったん「悪」の恐喝に屈してしまうと歯止めが利かなくなるものですよね。そこらあたりの心理描写が、見事に小説として再現されています。
山口組の組長がヒットマンによって殺害されるという事件が起きた当時を舞台とした小説ですが、今は暴力団はもっと巧妙になっているような気がします。そして、当時よりもさらに強大かつ潤沢な資金をもっているようです。
その最大の資金源が相変わらず大型公共土木工事の3%と言われる裏金だと思われます。暴力追放の官製市民の集会もいいですけれど、公共工事の談合と、その背後にうごめいている暴力団の姿をマスコミは勇気をもって暴き出し、報道して明るみに出してほしいと思います。
ストーリーのほうは、ネタバレはよろしくないと思いますので紹介しません。
特殊被害詐欺の手口もさらにブラッシュアップして巧妙になっているようです。その一端が、この本にも反映されています。
「クライム・ノヴェル」(犯罪小説)ですから、読んだら重苦しい気分になってしまうのも当然です・・・。
(2016年9月刊。1600円+税)

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