弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年12月28日

武器輸出と日本企業

社会

(霧山昴)
著者 望月衣塑子 、 出版  角川新書

 いま、安倍政権は自衛隊をアフリカに派遣して、ついに武器の本格的行使を認めましたが、同時に、国内で製造した武器の海外への輸出まで認めてしまいました。
 2015年10月、防衛省の外局として防衛装備庁が発足した。武器の研究開発から設計、量産、調達、武器輸出までを一元的に担う組織である。
 「平成のゼロ戦」とも呼ばれるXZは、防衛省と三菱重工が349億円かけて研究開発した。
フランスの武器見本市に日本の企業13社が初めて参加した。
2012年度の装備品の調達実績で、三菱重工についで2位となったのは1632億円を受注したNEC。2013年度、富士通は、第6位となる400億円を防衛省と契約した。武器製造や輸出でもうけたい企業は、海外の企業を買収して子会社とすれば規制をはずれ、やりたい放題になる。
防衛産業はボロもうけかと思うと、案外、そうでもないというのです。本当でしょうか・・・。受注は少量で、品種は多岐にわたる。
防衛産業が積極的に武器製造につき進めない三つの理由。
一つは技術が海外に流出してしまうことの心配。
 二つは、武器を売ることによるリスク。
 三つ目は、人殺しのための武器を売ることへの心理的な抵抗。
 軍需産業に従事する人間はテロの対象として狙われることになる。欧米の軍事企業のトップは、アルカイダの暗殺者リストに常にのっている。海外出張のときは、いつも警護要員をつけている。
 日本企業が製造する武器価格は、国際価格の3~8倍。それは、限られた数の企業が、防衛省という顧客だけを相手として武器を開発し、納入してきたため、量産体制がとれず、開発費がふくれあがってきたためだ。
いま、欧米の軍事企業が何で一番儲かっているかというと、ミサイルと弾薬。中東全域で戦争になっているため、精密な誘導弾は大増産されている。
日本はオーストラリアへの潜水艦輸出に失敗した。潜水艦は、実は最先端の技術が盛り込まれた武器であり、国家機密の集約体と言える。ハンドルも弁も、全部が機密になっているという世界だ。潜水艦用のリチウム電池も秘密の魂だ。音の出ないポンプがあるが、特許もとっていない。それほどの秘密だ。
 10式戦車は10億円に近い。哨戒機P1は一機169億円。救難機US2は一機112億円。F2戦闘機は一機131億円。ひゅうが型護衛艦は一隻973億円、89式小銃は一挺28万円。12.7ミリ重機関銃は一挺537万円。
日本の武器は、戦車は欧米の3倍、機関銃は同じく8~10倍。そのうえ、海外での実戦経験に乏しく、値段が高くても、性能は実証されていない。
 日本の防衛市場は、2兆円。日本の全工業生産額250兆円の0.8%にしかすぎない。大手防衛企業の軍需依存率は、最大手の三菱重工で11.4%、川崎重工が14.0%。10%を超えるのは、この二社だけ。日立造船9.6%、日本電子計算機8.5%、コマツ8.4%、IHI6.7%、三菱重機4.1%、東芝1.1%、NEC1.1%。
アメリカ軍は、2000年以降、日本国内の26の大学の研究者へ合計して1億8000万円も提供している。
 軍事共同なんて、おぞましい限りです。日本でも無人偵察機グリーバルホークをアメリカから導入するといいます。総額1000億円もの高い買い物です。ところが、この無人攻撃機のオペレーターの兵士は極度の精神的ストレスに悩まされているといいます。連日、画面を見ながら人殺しをしているのですから、当然ですよね・・・。
 日本の軍事産業の実態と問題点がコンパクトな新書によくまとめられています。

(2016年7月刊。800円+税)

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