弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年12月27日

なぜ弁護士は訴えられるのか

司法

(霧山昴)
著者 升田 純 、 出版  民事法研究会

 弁護士が元依頼者から訴えられることが珍しくはないという時代になりました。アメリカでは弁護士過誤を専門とする弁護士までいると聞いたことがあります。
 医療問題を専門に扱う弁護士団体(研究会)が日本でも活動していますが、アメリカと同じような状況になるのでしょうか・・・。
 実は、私も元依頼者から訴えられた経験があります。代理人として誠心誠意やったつもりでも、結果が悪ければ、依頼した弁護士に八つ当たりしたくなるのでしょう。ちゃんと期日前に準備書面を作成して裁判所に提出し、証人尋問の打合もきちんとし、期日の報告を欠かさなくても、結果が出ないと責任を取れ、払った着手金を返せと迫られるのです。もちろん私は弁護士過誤保険に加入していますから、過誤があったとなれば、保険の適用を受けて保険会社に賠償金を代わりに支払ってもらいます。でも、結果が悪かったから着手金を戻せと言われたら、たまりません。
 その事件の反省点は、そもそも受任すべきではなかったし、相性が悪いと思った時点で、途中でさっさと辞任しておくべきだったということです、なんとなくズルズルと判決までいったのが失敗でした。
 この本は、弁護士が訴えられた218の裁判例を分類し、判決の意義と指針を短くコメントしています。といっても680頁もの大作です。
 驚くべきことに、裁判官が事件担当の弁護士の主張について名誉棄損の不法行為が成立するとされた判決があるのです(控訴審は否定しました)。
 「本件訴訟は裁判所の適法な訴訟活動に対して因縁をつけて金をせびる趣旨であり、荒れる法廷と称する現象が頻発した時代にもあまり例がないような新手の法廷戦術である」その裁判官は、このように書いたのでした。目を覆いたくなるほどのひどさです。
 この本には、「中には社会常識を逸脱した言動、根拠を欠く言動、粗暴とも思われる言動をする裁判官も見られるのも現実である」としています。
 たしかに、私も30年ほど前には、よく見聞しました。私がこの10年来、困るのは、枝葉にとられ、形式ばかり細かくて、大局観に乏しい裁判官、強いものや権力に歯向かう勇気のない裁判官、やる気の感じられない投げやり姿勢の裁判官が目立つことです。
弁護士は、どのような場合に法的責任があるとされるのか、多くの判例を集めて分析している貴重な労作です。


(2016年11月刊。6900円+税)

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