弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2016年12月18日
池田屋事件の研究
江戸時代
(霧山昴)
著者 中村 武生 、 出版 講談社現代新書
幕末の京都に起きた有名な池田屋事件の顛末とその背景について、豊富な資料をもとにぐっと掘り下げた本格的な研究書です。400頁をこす新書ですから、ずっしりとした手応えがありますが、内容も重さに負けていません。
池田屋事件は元治元年(1864年)6月5日に起きた。そのころ、各地で攘夷浪士による挙兵が相次いでいた。大和の天誅組の乱、但馬生野の変、水戸の天狗党の乱、長州毛利家の率兵状況(禁門の変、蛤御門の変)。
池田屋事件のきっかけとなったのは、京都・四条小橋西詰真町の桝屋喜右衛門こと古高(ふるたか)俊太郎の逮捕だった。その6月5日の朝、古高(当時36歳)は自宅で新撰組に捕えられた。それを知った長州毛利屋敷は激しく動揺し、新選組の壬生屋敷を襲って、暴力に訴えてでも古高を奪還しようとなった。池田屋に新長州浪士たちが集まったのは、その具体化のためだった。
なぜ町の一介の商人を毛利家中が見殺しにせず、救出しようとしたのか・・・。それほど、古高は重要人物だった。
新撰組は文久3年(1863年)3月に創立された、京都守護職会津松平容保所属の浪士集団。畿内で暗躍する新長州の浪士集団に対抗するため、会津松平家は同じく浪士集団の必要性を感じていた。
古高は、皇族・堂上・長州毛利家をはじめとして広く交流しており、情報が集中し、面談場所として解放されていた。したがって、その存在を新撰組を気づくのは必然でもあった。
新撰組が古高を拷問にかけたとしても、その具体的供述によって初めて池田屋襲撃がなされていたというものではない。新撰組は古高の逮捕前から、浪士の潜伏場所として、20カ所あまりを確認していた。そこで、新撰組は、会津藩、一橋家、桑名藩に応援を頼んだから、応援組が遅れたので、待ちきれずに新撰組は行動を開始した。
桂小五郎も新撰組が池田屋を襲撃した当時、その場にいて、すぐさま脱出して屋根伝いに逃げて対馬屋敷へ入った。
新撰組に襲われて池田屋内で戦死した者が7人か8人いるのは確実だが、それが誰なのか、今なお確定していない。
池田屋事件の直前、近藤勇は新撰組の解放を請願していた。近藤勇は、自分たちを攘夷を行う「尽忠報国」の士と位置づけていた。攘夷が実行されず、京都の市中見回りに配属されるのをよしとしなかった。しかし、禁門の変のあと、変化した。禁門の変のあと、近藤勇は攘夷よりまず長州征討を行うべきだと主張するようになった。そして、一・会・桑(いっかいそう)が近藤勇と新撰組を手離さなかった。薩長にとって政局打開の最前線の敵は、一・会・桑だった。その一・会・桑の最重要軍事力こそ新撰組だった。ここで、たかが150名程度の兵士と考えてはいけない。150名というのは決して少なくないし、軍事的精鋭によって構成されている。
池田屋事件からまもなく起きた禁門の変で、長州は惨敗する。ところが禁門の変で反長州の立場をとった薩摩が、こんどは一・会・桑とことなり長州の社会復帰を助けた。あくまで毛利家の羽体化を望む一・会・桑との決戦を覚悟したのが、薩長同盟。それが長州征討の失敗につながる、会津が長州と全面戦争を行う覚悟を決めた事件として池田屋事件は位置づけられる。
5年前に刊行された本です。絶版になっていたので、ネットで古本を入手しました。その後、研究はさらに進んでいるのでしょうか・・・。
(2011年10月刊。1200円+税)
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