弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年12月13日

君たちが知っておくべきこと

社会


(霧山昴)
著者 佐藤 優 、 出版  新潮社

かの有名な佐藤優が灘高校の生徒たちと3年にわたって(それぞれ別人)対話した記録集です。生徒会の主催する先輩訪問行事の一環だったそうです。とてもいい企画だと私は思いました。
同じような本として、『それでも日本人は戦争を選んだ』(加藤陽子)というのがあります。東大教授が高校生を相手に講義したもので、大変刺激的な本でした。このコーナーでも前に取り上げました。
著者は受験勉強は非常に役立つものだと再三強調しています。実は、私も同感なのです。何のために勉強しているのか、受験勉強なんて何の役にも立たないんじゃないか・・・、そう考えたこともありましたが、それから40年以上たつと、いやいやそんなことはないと痛感します。
ただし、そのためには、大学に入ったあと、受験勉強で頭に詰め込んで記憶した物事をきちんと見つめ直して、なぜ、どんなカラクリでその答えにたどり着くのかというプロセスを丁寧に理解しておく必要がある。
受験勉強に意味がない、嫌いだと思っていると、人間は長期間記憶することが出来ない。
東大医学部(理Ⅲ)、慶応の医学部は、特別な記憶力と反射神経の良さにおいて才能が必要とされる。また、東京芸術大学と日本体育大学は、特殊な才能が必要とされる。それ以外の入試は、いかに合理的に勉強して知識を正確に定着させ、それをもとにちょっとした運用をできるようにすること、これが基本。これを守って勉強すれば、司法試験にだって合格できる。
この点についても、私は著者と同意見です。
現在、安倍首相のブレーンになっている兼原信克という人物の本の誤りが厳しく指弾されていますが、本当に呆れる内容です。信じられないレベルの低さなのですが、外務省の超出世頭だというので、まさにびっくりポンです。
良い小説を読んで、さまざまな状況を疑似体験し、代理経験を重ねることで自分を客観視できるし、いろんなタイプの人間を知ることができる。他人の気持ちになって考える訓練が必要だ。
これも、まったく同感です。小説を読んで涙を流すのは心を豊かにしてくれます。
著者は日本の弁護士って、つまらないと切り捨てています。
弁護士は基本的に金持ちの味方だ。怪しげな会社の顧問をやって、脱税をいかにして適法にするかを仕事にしている。
これには大いに異論があります。著者の交際している弁護士は、そのような人ばかりかもしれませんが、金持ちの味方という弁護士ばかりではありません。地道に弱者の権利を守ってがんばっている弁護士は多いし、私をふくめて、そのことにやり甲斐を感じているものです。
弁護士の仕事の面白さが若者によく伝わっていない気はしています・・・。反省です。
著者の読書範囲の広さと深さには脱帽です。大変な知的刺激を受けました。
(2016年11月刊。1300円+税)

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