弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年11月 9日

戦争のリアルと安保法制のウソ

社会


(霧山昴)
著者 西谷 文和 、 出版  日本機関誌出版センター

中東の現地に何度も足を運んで取材しているフリージャーナリストが中東の現実を紹介した貴重な小冊子です。
かつてイラクは、「中東の日本」と呼ばれた。人々は勤勉で技術力が高く、大学まで教育費は無償だったので、学力レベルも中東トップクラスだった。そして、首都のバグダットは「平和の都」と呼ばれていた。
イラクと日本は、戦後にアメリカから占領されたという点で共通している。しかし、日本では戦前の支配層が戦後も基本的に温存されたのに対して、イラクでは、40万人のイラク軍を解雇しただけでなく、フセイン政権の幹部そして官僚を追放してしまった。その結果、イラクは無政府状態になった。
イラクが無政府状態になったので、欧米のゼネコンがイラク復興費に群がった。
バグダットには、シーア派とスンニー派が混在していた地区も多かった。ところが内戦が始まると、人々は逃げ出した。大規模なアメリカによる空爆で逃げ出さなかった人々が、内戦が始まると家を捨て、故郷を捨てて逃げ出した。その結果、バグダットは、チグリス川の西側がスンニー派、東側はシーア派しか住めない分断都市になってしまった。
シリアという国は、東側には広大な砂漠が広がっていて、人口は雨の降る西側に集中している。ISの支配する油田からの収入は、1日2億円にのぼる。ISは3万人から5万人もの兵士を有し、700万人の「国民」に税金をかけている。
指導者のバグダディーやザルカウィは「飾り」なので、いくらでも取り替えが効く。
だから、アメリカが無人機でいくらISの幹部を暗殺してもISを弱体化させることはなく、逆効果でしかない。
アメリカがイラク侵略戦争を始めたのは、フセイン退治というより、石油利権を狙ってのこと。アメリカが効果のない「空爆」にこだわるのは、戦争がもうかるから。トマホークミサイルは1発数千万円、劣化ウラン弾は50~100万円。オスプレイは1機56億円。
安倍政権は恐怖をあおることで、軍事費をどんどん増大させている。社会保障や教育予算を削って、防衛費だけを伸ばしている。
「おい、日本人。おまえは何をしに来たのか。日本はアメリカの手先だ。日本人は、この国から出ていけ」
ついにイラクの人々から私たち日本人は、このように嫌われるようになったのです。悲しいです。残念です。
大勢の子どもたちが家を失い、故郷を失ってさまよい歩いています。そして傷つき、殺されています。そんな映像があります。
著者の撮った写真、ドローンによるアレッポ市街の動画もみましたが、戦争の悲惨さのほんの一端を実感しました。アベ政権は、そんな戦争に加担しようというのです。怖いです。止めさせたいです。黙っていないで、声をあげましょう。貴重な小冊子(88頁)です。ぜひ、手にとってみてください。
(2015年11月刊。800円+税)

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