弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年10月30日

イランの野望

中東

(霧山昴)
著者 鵜塚 健 、 出版  集英社新書

浮上する「シーア派大国」というサブタイトルのついた新書です。イラン・イラク戦争とかシーア派とスンニー派の争いといっても、日本人の私には、なかなかピンと来ない話です。
安易な選択肢の一つは、考えないこと、関心をもたないこと。二つ目は、諸悪の根源をはっきりさせ、徹底的に根絶すること。いずれも、これで問題がうまく解決した例はない。
そうなんです。そうすると、私たちは知るしかありません。そして、単純な「善悪二元論」ではなく、複眼的な見方が求められます。
イランは、今や、中東では希少な、安定した大国である。
ISは、2015年12月の時点で、月8000万ドル(96億円)の収入を得ている。その50%は支配地域での税金徴収や財産没収による。残る43%は石油の密売による収入。豊かな財源と領土を確保している。
イランはイスラム教のなかの少数派のシーア派に属している。かつてイラン王朝が栄えた国だ。
イランは、1979年のイスラム革命のあと、反米路線をかたくなに貫き、アメリカはイラン「封じ込め」に力を注いできた。皮肉にもアメリカの政策は、その意図に反し、結果的にイランに有利な状況をもたらした。
16億人いる世界のイスラム教徒の9割はスンニー派で、残り1割がシーア派だ。
イランは国内人口の9割以上をシーア派が占めている。
イラン・イラク戦争のとき、アメリカはイラクを支援したため、「殉教者」の家族はイラクだけでなくアメリカに対して怨念のような感情を抱く。そして近年の核開発でイランを抑え込もうとするアメリカへの反発心が、共鳴し、増幅している。
イランは産油国であるだけでなく、7900万人の人口をかかえる中東の大国だ。一定の富裕層に加え、購買力のある中間層は分厚く、トルコと並んで魅力的な市場になっている。
最近、中国がイランで存在感を高めている。中国は、イランにとって、最大の貿易相手国となった。イランの原油輸出先の第1位は中国である。
イランは、近い将来、国内に20基の原発を設置する計画で、その中核を担うのがロシアと中国だ。ロシアはイランにおける原発利権で突出している。
イランの実情の一端を知った思いがしました。
(2016年5月刊。720円+税)

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