弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年10月23日

ルポ・保健室

社会

(霧山昴)
著者 秋山 千佳 、 出版  朝日新書

いまほど学校に保健室が必要なときはない。この本を読んで痛感させられました。
子どもたちが、もっと家庭で、学校で大切にしてもらっていれば、保健室の必要性はそれほどでもないのでしょう。でも、働く若者が使い捨てされる社会の仕組みが強固なものになっていて、生存競争を勝ち抜いた強者のみがのさばる世の中ですから、弱者の代表たる子どもたちにひずみがいくのは必至でしょう・・・。
生徒に学校で好きな場所アンケートをとると、保健室とトイレの人気が突出している。それだけ、子どもにとって自分の教室は緊張を強いられる場所なのだ。保健室は、子どもにとって大人から成績で評価されない、否定されることのない貴重な場所になっている。
子どもたちは苦しいことがあると、安らぎを求めて保健室へ吸い寄せられる。とはいえ、はじめから自分の悩みを差し出すわけではなく、お腹が痛い、熱っぽいとか体調不良を訴え、あるいはただ雑談する。
養護教諭は、そんな子どもたちの発するSOSの小さなサインに目を光らせる。そして他愛もない話から、子どもたちの抱え込んでいる悩みを探り、引き出していく。
一年中、マスクを手放せない「マスク依存」の子が少なからずいる。それは、自信のなさの表れ。顔をさらすのを怖がっている。貧しくなくても、いろんな理由からマスクで顔を覆う子がいる。
保健室に来るのは、先生たちからあまり良く思われていない生徒が多い。
LINEでのいじめ、スマホの使い方は、保護者より子どものほうが詳しく、ルール決めが不十分な家庭が多い。その対応に自信がなくても心配無用。相談を受けるときの根幹は、その教師が信用できるかというアナログなものだから・・・。
私は、今もガラケーひとつですし、いつもカバンの底に入れています。スマホなんて使う気もありません。それでも今のところは十分生きていけます。
保健室は社会の鏡。というより、実際には、子どもが社会の鏡で、その子どもの様子がよく見えるのが保健室だということ。
子どもたちを取り巻く社会と学校の深刻な状況の一端がよく分かる本でした。
(2016年8月刊。780円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー