弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年10月11日

「イスラム国」の内部へ

ドイツ・シリア

(霧山昴)
著者 ユルゲン・トーデンヘーファー 、 出版  白水社

 ドイツ人ジャーナリストが「イスラム国」(IS)に潜入したルポルタージュです。潜入といっても、ISの了解を得たうえです。
 ISは、2003年のイラク戦争の落とし子である。イラクのサダム・フセインが失脚したあと、アメリカの指導部にとっては、アメリカの有権者に対してイラクにおける先の見えない戦闘を正当化するために、記憶に残りやすい悪逆非道な敵のイメージが不可欠だった。
 アサド政権に反対する初期の平和的なデモが無慈悲な内戦に発展する要因は、アメリカの寛大な承認を得て、各種の武器が巨大な貨物コンテナに入れられて船や飛行機でトルコにもたらされたことによる。それらの武器は、シリアに運ばれ、やがて反抗勢力の手に渡った。武器がシリア領内に入ってしまえば、もうアメリカはコントロールできない。
シリアでは、濡れ手に粟で、武器取引が横行した。
この200年間、アラブの国が西側の国を攻撃したことは一度もない。攻撃者は常にヨーロッパの強国であって、何百万人というアラブの一般市民が、そのつど残忍に殺害された。
もしテロリストがいなくなったとしたら、アメリカはそれをつくり出すだろう。アメリカは、何度となく、それをやった。
 テロリストたちは、自分たちの国をガソリンタンクと見なして、自分たちから搾取しているアメリカの攻撃的な政治に対するまっとうな返答と考えて攻撃している。
 中東におけるテロリストの数は爆発的に増大した。ビンラディンのころの国際テロリストは数百人でしかなかったが、今では10万人をこえている。
イラク国民は宗派をこえて和解したら、ISは決定的に弱体化する。
我々は、虚偽にみちた世界に住んでいる。殺人的な戦争挑発者と殺人的なテロリストに満ちた世界だ。
シリアに向かったドイツ人は300人にのぼるとみられている。ISは、5万人以上もの外国人戦闘員がISに加わっていると高言している。
ISの歳入は、戦利品、石油の販売、そしてザカート。
 ザカートとは、税金のこと。戦利品のなかには奴隷がふくまれる。ヤズィード教徒女性1人の値段はカラミニコフ銃1丁と同じ、1500ドルほど。
ISでは煙草は禁止。公の場で吸ったら、30回のむち打ち刑。音楽も禁止。
シリアでは、ISの住民の7割は外国人で、3割がシリア人。女性の戦闘員はいない。
ISが学校で子どもに教えるのは三つ。コーランと法と戦闘。
 百万都市モスルをISが支配しているが、その戦闘員は5000人。ISは2コ師団2万人を潰走させた。
ドイツ人の親子がISの内側に入って、その生活の一端を紹介した貴重な本です。日本の大手マスコミにはとても出来そうもないルポライタージュだと思いました。今度、自衛隊と一緒にスーダンの現地取材をするのでしょうが、現地の実情を曇らない目で報道してほしいものです。


(2016年6月刊。2400円+税)

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