弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年10月 3日

漂うままに島に着き

社会

(霧山昴)
著者  内澤 旬子 、 出版  朝日新聞出版

 この著者の『飼い喰い、三匹の豚とわたし』には圧倒されました。だって、みるみる巨体になっていく3頭の豚を自分で飼って最後まで面倒みたあげく、その豚肉を美味しくいただいたという話なのです。エサをきちんと与え、運動させた豚の肉は素晴らしく美味しかったとのことです。たしかに、そうなんだろうなと思います。というのも、私も最高ランクの牛肉を食べたことがあります。すると、いつもの牛肉の味とはまるで違うのです。やっぱり、エサと運動、健康管理が味にきちっと反映されるのですね・・・。
 この本は、乳がんになり、離婚もして一人で生活する40代の独身女性が東京を捨てて、何と小豆島に単身移住するという話です。
ガンを抑えるためのホルモン療法中に起きた副作用をきっかけとして、狭い場所や騒音が苦手となり、自分の居住空間のゆとり部分を広げるべく、蔵書を半分以上も処分し、仕事で書いてきたイラスト原画や収集してきた古書も手放した。別居を経て離婚し配偶者に去っていただいた。すっからかんの、何もない、静かな部屋で暮らしたい・・・。
これは、私もまったく同感です。子どもの情操教育に必要だと思って小さなピアノを置いていたのを、まず処分しました。すると、隣にあった背の高い本棚が邪魔だと思うようになりました。幸い引き取り手を得て、私にとって不要な本を次々に放出していき、今では12畳もあろうかという広い板張りの居間には何もありません。座卓と背筋トレーニング・マシーンがあるだけ。そして、昔は大きなステレオセットがありましたが、今では小さなステレオセットは本棚に埋め込んでいます。テレビはないので、夜は、虫の音しか聞こえてきません。静かなものです。じっと坐っていると、夏の夜には夜香木の香りが漂ってきます。といっても、一方の壁は、天井まで全面が本棚になっていて、縦にも横にも本が積み重なっています。そして、その本の背表紙を眺めるのが私の寝る前のささやかな楽しみなのです。
 小豆島での借家探しの苦労話が詳細に語られますが、それ自体を楽しんでいる風情なのです。そして、決め手は、月と海と暖かさと収納、ということ。トイレはもちろん水洗ではありません。それでも臭いが気にならない、うまい仕掛けになっているのでした。
 そして、小豆島では、豚ではなく、ヤギを飼ったのです。ヤギを飼うって、意外にも大変そうです。心配していた近所つきあいもなんとかなっているようです。
驚いたのは、よそ者の女性が一人で小豆島に流れ着いて定住する人が多いということ、そしてまた、ふらっと去っていく人も多いというのです。日本の女性って、今も昔も勇気がありますね・・・。
(2016年8月刊。1500円+税)

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