弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年9月30日

財界支配

社会

(霧山昴)
著者 佐々木 憲昭、 出版  新日本出版社

 今の日本の財界は、目先の、自分たちさえもうかれば良しとする傾向がいちだんとひどいように思います。
 自分も良いけど、客も喜んでいる、そして地域がニコニコ笑顔で暮らしていける、そんな社会を日本の財界人が目ざしているとはとても考えられません。残念です。
 日本の支配層団体である日本経団連とは、一体どんな組織なのか。それを資料にもとづいて明らかにしている貴重な労作です。
 日本では巨大企業が株主配当を最優先させる株主至上主義の傾向を強め、投機的資金を動かし、金融資産を肥大化させ、経済の金融課に拍車をかけている。大企業のもつ内部留保は空前の規模に達している。そのベースは、生産拠点をアジアなど海外に写し、国際的な生産ネットワークによって最大限の利潤を確保する多国籍企業へ変貌しつつある。そして、政府の軍事予算増大に寄生し、経済が軍事化しつつある。
日本の経団連の役員総数が増えているのは、日本の産業構成が複雑化していることの反映だ。1970年に役員は13人だったのが、45年後の2015年には36人と3倍に増えている。
日本経団連は製造業中心の財界団体であるが、2005年の64%をピークとして、2015年には39%まで減っている。総合商社の比重が高まり、金融保険業も急増している。世界的に投機資金が膨張するなかで、保険業界の機関投資家としての役割が飛躍的に増大している。
経団連役員企業の総資産は、1970年の1兆92億円から2015年には24兆5368億となって、24倍にも巨大化している。
経団連のトップ企業は、アジアをはじめとする海外市場に活路を求め、海外売り上げへの依存度をますます高めている。
 そして正規労働者が減り続けている。2000年と比べて、2015年には9240人も減っている。ところが、非正規労働者は急増している。2000年に比べて、2015年には、1万2839人も増加した。三菱重工における非正規労働者は、2005年の9.4%が2015年には17%まで倍増している。
外資の影響力が格段に高まっている、1970年に3%なかったのが、2015年には35%に近い。外資比率30%以上の企業が23社となり、経団連役員企業33社の7割を占めている。
 カストディアンという用語を初めて知りました。投資家に代わって有価証券を管理・保管する業務に特化した信託銀行、資産管理信託会社のことである。日本経団連の役員企業は、日米カストディアンの圧倒的な保有下に置かれている。カストディアンは、株主への利益還元を増進させている。
経団連企業の役員報酬額が増大している。一人で1億円をこえる報酬を受けとっている役員は、2010年の56人から2015年の89人へと増えた。全部では、211社の411人となっている。ところが、正規労働者の賃金は2000年の734万円が2015年の953万円へ1.3倍にしかなっていない。
日本の軍事予算は、2012年度に4兆7138億円だったのが、2016年度には5兆円を突破した。
 日本の「防衛装備品」の7割を20社で受注している。三菱重工業をはじめとする日本経団連役員企業が軍需産業と深くかかわり、国の軍事予算への依存を強めている。
 北朝鮮や中国の脅威をことさらにあおって、日本の軍備増強を叫んでいる政治家は、実はうしろで軍需産業と腹黒い交際をしているのがしばしばです。
それにしても、先日、稲田防衛大臣が軍需企業の株を夫婦で大量にもって増やしていると報道されました。「危機」を金儲けの口実にしているとしか思えません。プンプン・・・。


(2016年3月刊。2500円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー