弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年8月29日

虫のすみか

生物

(霧山昴)
著者  小松 貴 、 出版  ペレ出版

 私たちの身のまわりには、庭にも道ばたにも土の中にも、虫たちの不思議な巣であふれているのですね。そのことを満載した写真によって実感できる、楽しい虫の本です。
アリジゴクの主(ぬし)は、ウスバカゲロウの幼虫だったんですね。アリジゴクは、獲物をつかまえると食べるのではなくて、巨大なキバを獲物の体内に突き刺して、中身を吸い取ってしまう。そして、アリジゴクは糞をしない。成虫(ウスバカゲロウ)になったとき、まとめて大きな糞をする。ええっ、そんなことが可能なんですか・・・。
ハチやアリ、シロアリの多くは集団で分業して社会生活を送る。まるで人間のように洗練した高度な社会をもっている。だから、ある高名の昆虫学者が「利口ムシ」だと評した。それに対して、一人で好き勝手に食べて寝て暮らすだけの虫は「馬鹿ムシ」だと評する。しかし、著者は逆だと主張します。
群れなければ何ひとつまともな生活が出来ず、ひとりにされたら惨めに野垂れ死にする社会性昆虫こそ「馬鹿ムシ」であり、誰に教わるわけでもなく、たった一人で精巧な巣をつくり、毒針で狩りをする狩人蜂こそ至高の「利口ムシ」だと・・・。なるほど、ですね。
ヤマアリは強力な蟻酸をもっている。鳥のなかには、わざとアリ塚の上に降り立って暴れ、アリの蟻酸攻撃を受けることで、羽についた寄生虫を退治する「アリ浴び」の習性をもつものがいる。人間も、戦争中、服を洗うことが出来ないとき、ノミやシラミが湧いて困ったら、服をアリ塚に突っ込んで消毒していた。
うひゃあ、そんなこと知りませんでした。そんなことも出来るんですね・・・。
軍隊アリは、ジャングルにはなくてはならない存在である。軍隊アリは、ジャングルの空間にいちばん多く優先して生息する生物を一掃してしまうので、その区画内に「空き」が生まれる。そのことによって、森の生物の種の多様性をつくり出している。なるほど、そういうこともあるんですね。
東南アジアの国にはツムギアリの「アリの子」を食用にしているところがある。アリの幼虫をスープに混ぜたり、お米と一緒に炊いて食べる。かなり酸味の利いた味。まずいというのではないが、決して美味しくもない。そして、ツムギアリの巣を落として、その幼虫を鳥の餌にもしている。
攻撃的なツムギアリは、しばしば害虫駆除のために活用される。
たくさんのカラー写真とともに丁寧に解説されているので、素人にもよく分かります。
(2016年6月刊。1900円+税)

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