弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年8月17日

戦地の図書館

アメリカ

(霧山昴)
著者  モリー・グプティル・マニング   出版  東京創元社

 いい本です。読書は人に欠かせないもの、本を読むと人間は楽しくなる、そんなことを実感させてくれます。
根っからの活字中毒症である私にとって、我が意を得たりの思いで、満足感もありました。ナチスドイツは大学生に本を読むなと言って、禁書を燃やす「祭典」をしました。なんと野蛮なことでしょう。アメリカは、その反対に戦地にいる兵士へどんどん本を送り届けました。
そのなかにはボストンで禁書とされたような本まで含まれていました。そして、そのために国民の本の供出を呼びかけ、さらには軽いペーパーバックの兵隊文庫まで大量生産したのです。そして、戦場で傷ついた兵士から、本を読んだ感想文が作家のもとに届きます。
戦友が死んでいくのを見た日から、ぼくは世の中が嫌になり、冷笑的になった。
何も愛せず、誰も愛せなくなった。心は死んで、動かなくなり、感情を失った。
ところが、本を読んでいるうちに感情が湧いてきた。心が生き返った。自信まで湧きあがり、人生は努力次第でどうにでもなるんだと思えるようになった。
兵隊文庫には、すばらしい物語がある。軽くて携行に便利なペーパーバックで、手に入れやすかった。兵隊文庫をもっていない兵士はほとんどいなくて、みな尻ポケットに入れている。
ナチスドイツが葬り去った本は1億冊。アメリカは1億2千万冊の兵隊文庫を兵士に無料で提供した。
アメリカが戦争に勝ったのは物量の差だけではなかったのですね、初めて知りました。
兵隊文庫の本に入った作家は、多くの兵士と文通友だちになった。兵隊文庫は数知れぬ兵士の心を動かした。精神面で勝利すれば、戦場で勝利できるだろう。戦場で負傷した多くの兵士が、本を読むことで癒され、希望をもち、立ち直った。読書には心身の傷を癒す効果があることが証明された。
1939年に販売されたペーパーバックは20万冊。それが1943年には400万冊をこえた。
あれこれ迷うな。一冊つかめ、ジョー。そして前へ進め。あとで交換すればいいんだから。
これは兵士たちへの呼びかけ。人気の本は兵士たちに徹夜で読まれ、他の兵士へまわされた。
日本軍との死闘がくり広げられたサイパン島には、海兵隊の先発隊が上陸して4日後に兵隊文庫を満載した船が到着し、その3日後には、図書館が建設された。
これでは日本軍が負けるのは、ごくごくあたりまえ、必然ですよね・・・。
戦争前には読書週間のなかったアメリカの青年が読書好きとなり、アメリカは世界最高の読書軍団を擁することになった。だから、戦後、復員した元アメリカ兵は大学に入って勉学にいそしむのです。その年齢制限も徹廃されたのでした。
戦争の実相についても、いろんなことを教えてくれる本でした。
(2016年5月刊。2500円+税)

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