弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年8月10日

靴下バカ一代

社会

(霧山昴)
著者 越智 直正 、 出版 日経BP社 

今どき、こんな経営者もいるのですね。見上げたものです。とても勉強になりました。やはり、ビジネスの極意は、自分だけがもうかればいいというのではありませんよね。
我以上に、相手よし。そして、我が社を支える社員を大切にするということです。そうやってこそ、企業は社会に貢献できるのです。下請企業の単価をいかに切り下げるか、それしか考えない大企業がいかに多いことでしょうか・・・。
「奇天烈(きてれつ)経営者」の人生訓というサブ・タイトルがついています。なるほど、常識の枠からは相当はみ出しているようです。でも、本人がやりたいことを精一杯やっていて、それで客も社員も、取引先もみんな喜んでいるのだったら、何も言うことありませんね・・・。
靴下専門店の店「靴下屋」をあちこちで見かけます。全国チェーン店なんですね。著者はその会社(タビオ)の創業者(会長)です。
この会社は、すべて国産の靴下をつくっていて、今や海外にまで店を構えて売っているそうです。原料となる綿までつくり出したというのですから偉いものです。
靴下の弾力を確かめるためには、嚙むのが一番。いい靴下は、嚙んだあとに歯形が残らず、自然と原状に戻る。品質の落ちる靴下は噛み跡が残ってしまう。ただ、噛み方にはコツがあって、数分間、一定の力で噛み続ける必要がある。そのため、水を張った洗面器に顔をつけて息を止める練習までした。
靴下なんて、どれも同じ。どれを履いても、そんなに変わらない。そう思うかもしれないが、少しの違いでも、こだわり続けたら、商品に差が出てくる。その差を生むのが、靴下屋の心なのだ。
うむむ、これはスゴイ言葉ですね・・・。
著者が丁稚奉公をしていたときの経営者の言葉。
「万事、まず頭を使え。次に体を使え。銭は切り札だ。銭を使ってやるんなら、バカでも出来るんじゃ」
「一生一事一貫」。一生を通じて、一つのことを貫き通すということ。著者は靴下で、これを実践してきた。私の場合は、それは弁護士ですね。40年以上も弁護士をやっていますが、これほど自分にあった仕事はありません。
経営に奇策なし。経営者に必要なのは、原理原則を身に付けること。本を読んで、もし難解で分からないところがあれば、今の段階で、その部分は不要だということ。
「おまえに起こってくる問題は、人の生き死に以外は全部、おまえが解決できるから起こった人や。だから、おまえが本気になったら、解決できる。おまえが逃げ腰になっとるから、解決できないんや」。なーるほど、そういうものなんでしょうね・・・。
借金したときには、必ず約束した返済期限を守る。よそから借りてでも必ず返す。
この二つが借金の大原則。他人から借金するときには、初めは、その人がもっていると思う額の半分を借りるのが借金の極意。
得意先になってくれた店は、とことん面倒をみる。価格競争はしない。デザインで競うこともしない。「3足1000円の靴下」なんかで勝負はしない。あくまで、より良い品質の靴下を適正な価格で提供する。仕入れを値切ることはしたことがないし、支払日も守り通した。
品質にこだわった商品をつくっていくには、工場との信頼関係を築くのが一番大切。
いい本でした。今度、この店で靴下を買って、はいてみたいと思いました。
(2016年5月刊。1800円+税)

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