弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年7月 8日

米軍基地がやってきたこと

アメリカ


(霧山昴)
著者  デイヴィット・ヴァイン 、 出版  原書房

 米軍基地は世界中に展開する超大型フランチャイズだ。アメリカ国内には独立した外国の基地はひとつもないのに、外国には米軍基地が800近くもあり、何十万人もの米兵が駐留している。
 米国国防総省(ペンタゴン)によると、戦後70年たった現在でも、ドイツに174、日本に13、韓国に83の米軍基地が存在する。世界の70ヶ国以上に米軍基地はある。
アメリカ以外の国々のもつ在外基地は30。それに対してアメリカは800。
海外で暮らす50万人以上のアメリカ人が基地関係者だ。日本やドイツのように受け入れ国が費用を一部負担していても、アメリカの納税者の負担は、国内にいる兵士と比べて年間平均で4万ドルも増える。在外基地や軍の駐留を維持する費用総額は少なくとも年間718億ドルにのぼる。
 アフガニスタンやイラクにおける基地と兵士にかかる経費をふくめると、総額では1700億ドルをこえてしまう。
 在外基地を維持するためには、アメリカは好ましくない相手と手を組むこともいとわない。イタリアでは、米軍とマフィアが癒着している。
基地の存在が受け入れ国の安全を実際にどこまで高めているのかは疑問である。
輸送技術が進歩した現在、アメリカが海外に軍を駐留させておくメリットは、実は、ほとんどない。アメリカ本土やハワイから軍を配備するのにかかる時間は、海外にある多くの基地とほぼ変わらなくなっている。
 外国の基地は、危険な地域を安定させるどころか、軍事的緊張を高め、紛争の外交的解決を妨げることが多い。
米軍は、アフガニスタンから正式に撤退したあとも、少なくとも9つもの大規模な基地を残している。イラクから撤退したあと58か所の持続的な基地を保持しようとして失敗したが、要塞のような大使館は基地のような存在であり、アメリカの民間軍事会社の大規模部隊も残っている。そして、ISとの新しい戦争が始まると、何千人もの米兵がイラクにある5つの基地に戻っている。
 1980年代に起きた大虐殺で、ニカラグアでは5万人、エルサルバドルでは7万5千人、グアテマラでは240万人が死亡あるいは行方不明となっている。犠牲者の大部分は、貧しい一般市民だった。そして何十万人もの難民が近隣の国々やアメリカに殺到した。その原因は、アメリカ政府が供与した銃弾にある。
 1980年代、アメリカ政府は麻薬取引に関与する残忍なコントラや、ホンジュラス、グアテマラ、エルサルバドルの圧倒的な政権を支援し、中米の汚い戦争をあおった。その戦争によって何十万人もの人々が殺傷され、社会的関係がずたずたに壊された結果、貧困と危険、麻薬密売が蔓延し、かなりの人々がアメリカなどへの移住を強いられた。
在外米軍基地からは、すさまじい量のゴミが出る。平均的な沖縄住民の出すごみの量は年間270キロであるのに対して、米軍兵士はその3倍近い年間680キロものゴミを出す。
基地の外で女性を搾取するように若い兵士にけしかけておきながら、その舌の根も乾かないうちに、軍の女性を仲間のひとりとして扱えなどといっても、それは無理な注文だ。
 米軍の女性兵士は、敵の兵士に殺されるよりも、軍の仲間であるはずの男性兵によってレイプされることのほうが多かった。人間の社会では、ある種の条件でレイプや性的暴行が起きやすくなる。そうした条件がそろっているのが米軍であり、世界にある在外基地だ。そこでは、女性が男性より劣った存在とみなされる。ポルノやショーで女性はセックスの対象でしかない。男性は男らしさを発揮するよう教え込まれ、そそのかされる。その男らしさの概念の中心を占めるのは自分より弱く劣っていて、支配されてもしかたのない人間に対しては、いくら力と権力をふるってもかまわないという思想なのだ。
 沖縄にいる海兵隊は、緊急時に重要な活動に参加するための輸送手段をもたない。沖縄から単独で、迅速に作戦行動がとれないということは、この地域に海兵隊がいても抑止力があると言えるのか、疑問だ。海兵隊が沖縄に配属されるのは、訓練に絶好の場所だからだ。 
この本は、アメリカ軍の海外基地が日本にとっても有害無益であることを実証しているといって過言ではありません。
(2016年4月刊。2800円+税)

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