弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年7月 7日

ガザの空の下、それでも明日は来るし人は生きる

(霧山昴)
著者  藤原 亮司 、 出版  インプレス

 自爆攻撃をして爆死した子の親は次のように語った。
 「その日もいつもと同じ時間に起きてきて、いつもと同じように家族と朝食を食べ、そして家を出た。息子は、パレスチナの子どもや女性が撃たれるニュースを見て、憤りを感じていた。10人いる兄弟のなかでも、とくに優しい子だった。世界では、息子のような人間をテロリストと呼ぶことは知っている。でも、戦闘機やヘリコプターでパレスチナ人を殺し、町を破壊するイスラエルと、せいぜいライフルくらいしかない我々がどう戦えというんだ。私は殉教した息子を誇りに思う」
 むむむ、なんということでしょうか・・・。
 パレスチナ人の女の子に「大きくなったら何になりたいの?」と質問をした。その答えは、「朝、目が覚めて自分が生きていると分かったら、その日、何をしようかと考えるけれど、いつ死ぬかもしれないから、先のことは分からないな」。そして、続けた。「将来のことは、大人になるまで生きていたら考えるよ」 これが10歳の少女の言葉です。なんと苛酷な状況下に生きているのでしょうか・・・。
 イスラエルでは、男女ともに18歳になると兵役義務があり、男性は3年、女性は2年弱の兵役に就き、男性は40歳までは毎年1ヶ月間の予備役義務がある。もし兵役拒否をしようものなら、イスラエル社会のコミュニティーからはみ出して生きることになる。
 イスラエルでは、学校教育の中で、軍がいかに素晴らしいものであるかを徹底的に刷り込んでいく。
分離壁の効果は絶大だった。それは、パレスチナ人「テロリスト」の侵入を防ぐとともに、イスラエル人の意識のなかで、パレスチナ人の存在を薄める効果をもたらした。ユダヤ人だけでなく、イスラエル国籍をもつアラブ人にとっても、パレスチナ人が同胞という意識は薄れた。
 今やイスラエル軍の姿は見えない。無人攻撃機やF16からの空爆と遠方からの砲撃。イスラエル軍の兵士や戦車を一般のパレスチナ人は見ることがない。そして、遠くから飛んできたミサイルで突然に殺され、家を壊される。
 危険がいっぱいのパレスチナ現地を取材している数少ない日本人ジャーナリストです。ヨミウリ・サンケイもパレスチナの現地に特派員を出して戦場の実際を生々しく報道したらいいと思うのですが・・・。
 たくさんの写真も臨場感にあふれています。
(2016年5月刊。1800円+税)

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