弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年6月29日

ハンター・キラー

アメリカ

(霧山昴)
著者 T・マーク・マッカリー 、 出版 角川書店 

遠隔操作による無人機で「テロリスト」をいくら殺しても、何の解決も導かない。こんな単純な真理をなぜ賢いはずのアメリカ人が分からないのでしょうか・・・。凡人の私は不思議でなりません。
「テロリスト」を生み出した土壌(原因)をよくよく考察したら、たとえばペシャワール会の中村哲医師のような砂漠に水路を引いて農地をつくって農業を成り立たせることこそ、一見すると迂遠のようだけど、実は解決への早道だと思うのです。
それはともかくとして、この本はドローン(無人機)を遠隔操縦してきたアメリカ空軍中佐の体験記です。ですから反省の弁というより、いかに「テロリスト」発見と暗殺が大変なのか、苦労話を語っています。アメリカ軍の内情を知るという点で面白く読めます。
ジブチ共和国は、アメリカの対テロ作戦において最高の立地を誇る砦である。ええっ、ジブチって、日本の自衛隊が基地を設けているところですよね・・・。
プレデター(無人機)は、悪天候でも、標的の上空から高解像度の映像を送信できる。1機320万ドルと安価だ。F22ラプター(有人戦闘機)は1機2億ドルもかかる。
プレデターに初めて兵器が搭載されたのは、2001年。目標指示ポッドが改良され、標的へのロックオンが可能になった。
アル・ザルカウィは、唯一、「白い悪魔」、プレデターを恐れた。無言で忍び寄る殺人鬼だ。
最近はプレデターの生産が徐々に減らされ、リーバーのほうがよく活用されている。リーバーはプレデターよりも大きく、A-10攻撃機と同じサイズで搭載量も多い。ヘルファイア・ミサイル4つと、225キロ爆弾2つを搭載する。
プレデターの難点は、気候対策が出来ていないことに起因する。機体は、丸一日飛んで、任務が終わると、湿気の多い基地に着陸する。湿った空気が高空で冷え切った期待に触れると空気の中の水分が凝結することがある。
プレデターやリーバーを操作するのは本物の空軍パイロットたち。アメリカ本土そして、近くの基地に出向いて操縦している。シブチでは1年間にプレデターを4機も失った。
プレデターを操作する兵士は現場から1万キロ以上も離れているから殺傷行為から精神的にも距離を置けるので、ダメージが少ないというのは大変な誤解だ。むしろ、逆に距離が近すぎて、あまりにも多くのことを知ってしまううえ、敵を撃つ直前はズームインして相手をモニターに大きく映し出すから、その敵が殺される残像を頭にかかえたまま帰途につく。
自分たちは決して殺されることがないのに、相手の生存するチャンスはゼロ。冷酷な殺し方だが、決して感情抜きではない。「敵」の遂げた最期の残像が家に戻ってからも、頭からぬぐえない。
人を殺すことの重みなんでしょうね・・・。こんな戦争に日本が関わるなんて、とんでもありません。憲法違反の安保法制の廃止を求めます。

(2015年12月刊。2100円+税)

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