弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年6月28日

中東と日本の針路

中東

(霧山昴)
著者  長沢 栄治、栗田 禎子 、 出版  大月書店

 安保法制はアベ首相のいうように日本に平和をもたらすどころか、世界の戦争に日本を巻き込ませようとするものです。百害あって一利なしとしか言いようがありません。そのことを中東を長く研究している学者が語り明かしている本です。
 中東が戦争の標的とされてきた主たる要因は二つ。一つは石油。二つは、この地域の戦略的・地政学的な重要性。
 安保法制は、自衛隊がこれから中東やアフリカを標的として起きるであろう、ほとんどすべての戦争・軍事行動に協力・参加する道を開くものである。
 安保法制は、中東と日本、ひいては世界全体を出口のない戦争と混乱の時代へと導いていく扉となるだろう。
 ネット時代において、情報・カネ・モノが瞬時に国境を超えてしまうグローバル金融資本のもとにあって、逆にナショナリズム的な情動が人々の行動を規定することになってしまうという皮肉がある。
アメリカ社会で生活に行き詰まった「負け組」の若者たちが、州兵として民間軍事会社に動員され、イラクで殺されていった。
中東におけるアメリカの同盟国であるイスラエルは、グローバル・システムのなかの「勝ち組」と化し、安倍政権は中東において一人勝ちのイスラエルと手を組んで、世界大に広がるネオリベラリズム的潮流の「優等生」として国際社会を生きのびようとしている。
安全保障という名のもとで軍事産業の成長が日本経済の成長を約束するかのような議論がまかり通っている。
いま、日本はアメリカという泥船と運命をともにし、沈没しつつあるのではないか・・・。
アメリカとの結びつきを日本が強めるのは、かえって中東における日本の立場を悪くし、アメリカの介入策に下手につきあうのは、利よりも害が大きい(と案じられる)。
イラクを全面的に支配したはずのアメリカ軍は、治安の悪化に歯止めをかけることができず、内戦に対応できなくなった。
シリアの内戦は、逆説と矛盾にみちた複雑な連立方程式である。しかも、変数は増えていく。
アメリカは、アフガニスタン・イラクと続けてきた失敗を、結局のところシリアでも繰り返している。
アメリカは、イラク戦争そのものに2兆という巨費をつぎこんだ。イラク軍の訓練に250億ドルの予算を使い、600億ドルを復興にかけた。ところが、イラクに安定した親アメリカ国家をつくるという目論見は成功しなかった。
 イランについては、穏健なロウハニ政権の後押しとなるような経済交流を日本はすすめ、周辺諸国との「アツレキ」を抑制することに貢献すべきだ。
250頁ほどの本ですが、日本と中東の関係において、安保法制はきわめて危険かつ有害であることが際だって明らかなものであることを強調している本として、ご一読をおすすめします。
(2016年5月刊。1800円+税)

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