弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年6月25日

安高団兵衛の記録簿

日本史(戦前)

(霧山昴)
著者 時里 奉明 、 出版 弦書房 

すごい人がいたものです。自らのしたこと、生活のすべてを刻明に記録していたのです。
私も、それなりに記録魔のほうですが、この本の主人公はケタ違いです。私など、その足元にはるか及びません。
私の場合、小学4年生以来つけていた日記やノート、メモを捨てずに今も手元に残しています。記録をとるときに忘れてはいけないのは、「年」です。そして、出来たら「時刻表示」もしたほうがいいのです。始まりが何時何分で、終了したのは何時何分だったと記録するのです。これは、旅行記をまとめるときに役に立ちます。
私は、それを活用して、大学生のころ何をしていたのか(セツルメント活動、寮生活そして東大闘争)について、8冊の本を刊行しました(売れなかったのが残念です)。弁護士になってから受けた税務調査実の顚末も2冊の本にしました。そして、先日、司法修習生のころを小説にしました。日記を書いていたのではありません。メモを書いて残しておいたのと、当時の資料のほとんどをダンボール箱に入れて保存しておいたのをベースとしました。もちろん、それだけでなく、同期の人たち、そして先人の書いた本などを広く参照しました。
この本の主人公は福岡県芦屋(あしや)町に生まれました。安高(あたか)という名前です。典型的な農家の生まれ育ちでした。
著者は安高家の長男として生まれ、家業の農業に従事した。地域のさまざまな団体組織の役員をつとめ、社会的な活動にも熱心だった。
団兵衛(著者)の日記は11歳のときに始まり、60年間、ほぼとぎれることなく続いている。
団兵衛は睡眠時間を削ってまで働いた。そして、何時間ねたかも記録していた。その平均した睡眠時間は5時間40分だった。
団兵衛は、農業をはじめてみると、農業ほど面白い仕事は他にないと思うまでになった。農業ほど楽しく、しかも聖なる仕事はない。
団兵衛は読書につとめた。それは修養のためだった。団兵衛にとって、近郊の市場へリヤカーに品物を積んで牛馬にひかせて歩いていくときの読書が唯一の「読書タイム」だった。
私は、本を読むのは車中と機中に限っています。机に向かったときは、もっぱら書きものをしています。
一人で仕事をすると、競争相手がいない。そこで、時間と競争をする。つまり、時間を相手にすることによって、競争心理が生じる。こうすることで、精神が緊張し、仕事の能率が向上する。
日本人のなかには、こんなに記録を残したい人がいるのですよね。それでルポルタージュも売れるのでしょうか・・・。私は、やっぱり小説を書きたいです(主人公になった気分で大きくはばたきたいのです・・・)。
一冊の手頃な本にまとめていただいた著者に感謝します。
(2016年3月刊。1900円+税)

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