弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年6月21日

ブラックバイト

社会

(霧山昴)
著者 今野 晴貴 、 出版 岩波新書 

学生を「使い潰す」アルバイトをブラックバイトと呼ぶ。
アルバイトに過重労働が広がったことによって、もっとも重大な被害をこうむっているのが高校生そして大学生だ。学校のテストや授業よりも、アルバイトを優先するように強制され、「単位が取れない」「留年してしまった」「進学をあきらめてしまった」という問題が全国で一斉に吹き出している。
問題の背後には、産業界の変化、学生の貧困の拡大、教育の変化などさまざまな要因がある。
ブラックバイトで問題になっている業種の多数は、全国規模のチェーン店として展開している。
店の側は、アルバイトをやめようとする学生をこうやって脅す。
「本当に辞めるのなら、懲戒解雇にする。懲戒解雇になったら、就職できなくなるよ」
ええっ、これはひどいセリフです。もちろん、まったくの嘘八百のセリフですが、この脅し文句を真に受けてしまう学生は少なくないことでしょう・・・。
「おまえ、どうやって責任とるんだ。死んで責任をとるしかないぞ」と脅されたアルバイトもいる。なんてひどいセリフでしょうか・・・。いえ、もっとひどい脅しのセリフもあります。
「今から家に行くからな。ぶっ殺してやる」
うひゃあ、す、すごーい・・・。こんな物騒なセリフを吐く店長も相当に追い詰められているのでしょうね。でも、言われた当の本人は、ついに不安障害、うつ状態と診断されてしまいました。
ブラックバイト・ユニオンという団体(労組)まで結成されているそうです。一抹の光明ですね・・・。
個別指導を売りものにする塾では、担当生徒を3人以上も退会させたら解雇されるという規定がある。
牛丼チェーン店の「ワンオペ」。ワンオペとは、何から何まで、すべてを一人でやらなくてはいけないという状態をさす。休憩をとることが不可能になる。
24時間、仕事に拘束されたうえ、さらに大変なのは、クレームへの対処。
ブラックバイトは、学生であることを尊重しない。 
この点が、私たちの時代の学生アルバイトとは決定的に異なります。少し前まで、試験が近づくとアルバイトが休みをとるのは当然でした。ところが、今は違うのです。今やアルバイトは過剰なまでに戦力として期待されています。
ブラックバイトの三つの特徴。
一つは、学生の戦力化。
二つは、安くて従順な労働力。
三つは、一度はいると、辞められない。
今の学生の置かれている非常に深刻な状況が嫌やというほどよく分かります。どうやって打開したらいいのでしょうか・・・。みんながよく状況を認識し、おかしいという怒りの声をあげていくところから始めるしかありませんよね。
(2016年4月刊。820円+税)

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