弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年6月 2日

解剖・北朝鮮リスク

朝鮮(韓国)


(霧山昴)
著者  小倉 和夫・康 仁徳 、 出版 日本経済新聞出版社

北朝鮮は、建国の父である金日成が抗日パルチザン活動をしていたことから、ゲリラ的な活動が得意な「遊撃隊国家」と呼ばれた。
金正日総書記の政治活動について、韓国では「カムチャックショー(びっくりショー)」と言われた。金正恩の手法もそれを継承している部分が少なくない。
朝鮮半島には、今も冷戦構造が残っている。最新鋭の近代兵器をそろえたアメリカ・韓国を相手として、年々広がる一方の通常兵力の劣勢。これを挽回していくほどの経済力はなく、この差を補うには核兵器などの大量破壊兵器が手っ取り早い。
北朝鮮の中国への貿易依存度は9割をこえている。
北朝鮮の経済は、表向きは上向いているとされるものの、決して国民に胸をはれるほどではない。
金正恩体制の主な特徴の一つは、軍中心から党中心へ、国政運営と統治方式が変わってきているということ。軍に対する党の統制を強化し、金正恩体制が軍隊ではなく、党を通じて国政を運営できるように制度的な裏付けをした。金正恩は、軍部の特定の人物や勢力に権力が集中しないようにした。軍部が首領と党に絶対的な忠誠を果たすようにするためである。
金正恩の権力継承過程で重要な役割を担った張成沢-金慶喜-李英鎬-崔竜海のグループは崩壊し、北朝鮮の権力エリートの新たな再編が始まった。
つまり、党組織指導部および党宣伝扇動部の地位と権限が強化され、黄炳瑞などの親政勢力が権力を掌握するようになった。
金正恩政権が発足して抜擢された人物も粛清することで、忠誠を尽くさない人物には例外がないことを示している。
金正恩政権には、軍の元老実力者がおらず、第2グループを形成して分割統治をするほどの権力基盤が構築されているとは言えない。支柱の役割をする勢力もいまだ形成されていないため、力による統治を行うしかなく、これにより反対勢力を牽制し、取り除く作業を継続していく。
金正恩政権下で、物価は比較的に安定し、住民の消費生活は維持されている。
北朝鮮の権力構造が横のつながりを許容しないため、集団的反発が発生する可能性は、ほとんどない。すなわち、北朝鮮の党・政・軍のエリートや住民のあいだに組織的な不満や抵抗の兆候は見られない。金正恩自身は、新たなリーダーシップを確立するため、オープンで型破りな行動を続け、「愛民指導者」とされた。
1993年12月の朝鮮労働党の中央委員会で長期経済計画が発表された。それ以降、北朝鮮は一度も長期経済計画を実施していない。
北朝鮮の経済状況と金正恩による政治の実態を知るうえで欠かせない本だと思いました。
(2016年2月刊。3000円+税)

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