弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年5月10日

現代史の中の安倍政権

社会

(霧山昴)
著者  渡辺 治 、 出版  かもがわ出版

 安倍首相のやっていることを時代錯誤的な個人的な思いつきと考えるのは、まったくの誤りだ。安倍政権には二つの顔があり、その二つをセットとして実行している。
 その一つは、新自由主義改革の本格的な再稼働。
 もう一つは、アメリカや日本の保守支配層も眉をひそめる侵略戦争肯定論。
 安倍首相の目ざしているのは、復古的な大国ではない。 安倍政権は、国民動員の見地から、植民地支配と侵略戦争の歴史を否定したいという強い衝動をもっている。
アメリカや日本の財界も、安倍政権の評価をめぐって動揺していた。しかし、2013年ころから、割り切って安倍政権を支持するようになった。というのも、これほど野蛮な情熱をもっていなければ、軍事大国化、そして「構造改革」を再建することはできないという判断をしたから・・・。いわば、安倍政権は、現在の支配階級の最大の切り札になっている。
安倍首相に対しては、従来の政権以上に官僚機構が全面的に支援している。
アメリカの世界戦略は変化した。イラク・アフガニスタンへの派兵そして戦争は、二つの結果をアメリカにもらした。一つは未曽有の財政赤字。二つには、国民の反戦・厭戦意識の高まり。
オバマ政権の対中政策には、二面性がある。一つは、中国をアジアにおけるパートナーとして位置づける。もう一つは、中国を軍事的・政治的に抑え込もうという路線である。
安倍政権の描いたシナリオに誤算が生じたのは、国民運動の高揚である。
安倍首相が歴史の修正と改ざんの執念を燃やしている最大の要因は、戦後のドイツとは異なって、「戦後」を肯定化する延長線上では、安倍の軍事大国は正当化できないということにある。
安保法制は、国民の側からすると、戦後70年にわって堅持してきた、海外で戦争しないという国是を壊す大転換でもある。
安保法制を施行させない、若い自衛隊員をたとえばアフリカの戦場へ送らないようにする必要があります。
安倍首相の確信犯的な恐ろしさは、このところまさに倍加しています。ひどいものです。にもかかわらず、安倍首相への支持率が4割をこえているなんて、おかし過ぎです。

(2016年1月刊。1800円+税)

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