弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年5月 8日

古代ユダヤ戦争史

イスラエル

(霧山昴)
著者  モルデハイ・ギボン、ハイム・ヘルツォーク 、 出版  悠書館

 旧約聖書におけるユダヤ人の戦いを現地の地勢に照らして、考古学的知見をふまえ、図解しながら再現している本です。なるほど、そういうことなのかと驚嘆しながら読みすすめていきました。もちろん、私は旧約聖書をきちんと読んだことは一度もありません。ただ、いくつかの戦いの名前だけは知っているという程度でしかありません。
 パレスチナは、ユーラシア大陸とアフリカ大陸とを結ぶ唯一の「陸橋」である。パレスチナの陸橋に、前12世紀から1200もの長きにわたって続いてた民族国家を形成したのは、ひとりユダヤの民だけだった。この長い期間、ユダヤの民は、しばしば数的劣勢を精神と献身でもって補うことを強いられた。
古代イスラエルで戦闘にかかわる者は、高い山岳地帯での戦いから、砂漠での戦いまで、極端なあらゆる場面での戦闘に精神していなければならなかった。
12世紀の戦いで、十字軍は飲み水に欠乏して憔悴していたのに対して、他方のサラセン軍は88キロ離れた山の斜面からラクダを使って次々に運ばせた氷で冷やした飲み物で喉をうるおしていた。
ユダヤ社会において「民」は、直接的であれ間接的であれ、常に国家に対して影響力をもつ存在だった。
 イスラエルの軍隊は、武装した一般民衆を中核として構成されていたが、イスラエルの民は、いつでも武器をとって戦う気がまえができていた。
 イスラエルの兵は、ほとんど全員が歩兵だった。イスラエルは諜報機関を大切にしていた。軍司令官は、自分の情報収集期間に対し、情報のたしかさを証明する証拠をできるだけ多く収集することの重要さを教え、その周知徹底につとめていた。
 宿屋は、いつの時代も、情報収集に非常に適した場所である。泊まり客たちの軽率なおしゃべりと、宿屋の主人の鋭い聴力が一つにあわさると、熱望された情報源となる。
訳者による解説が出色です。
優秀な指揮官であるかどうかの重要な決め手は、見えない「丘の向う側」の敵軍の動きを読みながら、あるいは想定外も考慮に入れつつ、迅速にして的確な対応ができるか否かである。そのためには、指揮下の偵察や諜報機関による情報収集が求めらえるだけでなく、報告された情報が果たして本当に正しいか、自分の責任において見極めなけれならない。
 そして「サウルのジレンマ」というのがあります。つまり、全軍の長たる父王の許可なしに配下の部下だけで敵の陣地を攻撃する単独行動をとったとき、そのために戦いに勝ったという場合に、「命令違反」として死刑に処していいのか・・・。というものです。勝ったんだから許せるとしたら、いつだって命令違反をしていいということになりかねません。難しいところですよね。よくぞ調べてあると驚嘆しました。
 

(2014年6月刊。4800円+税)

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