弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年5月 7日

戦場の性

ドイツ・ロシア

(霧山昴)
著者  レギーナ・ミュールホイザー 、 出版  岩波書店

 「独ソ戦下のドイツ兵と女性たち」というサブタイトルのついた本です。凄惨な性暴力から「合意の関係」まで、丹念に資料を掘り起こした労作です。
 ソ連軍兵士は、1944年から45年にかけて、ナチズムとその同盟政権を支持した女性に対してだけではなく、ファシズムに敵対した女性や抵抗運動の女性闘士、さらには強制収容所の解放のさいに遭遇した女性囚人に対しても、大々的に性暴力を行使した。
 首都ベルリン攻防戦のときにも、ソ連軍兵士は11万人あまりの女性をレイプした。50万人が犠牲になったと考える研究者もいる。抑留されていた男性が帰国してくると、女性は口をつぐんでしまった。
 ソ連の解放軍兵士が加害者で、ナチズムを信奉していたドイツ人女性が被害者であるという構図は戦後のドイツで、政治的に問題をはらんでいた。たしかに難しい状況ではあります。
ドイツでは当時、カメラを所有するのは珍しいことではなく、兵士もカメラを持参し、たくさんの写真をとっていた。ですから、写真がたくさん残っているのです。
ドイツ国防軍の兵士たちはソ連に侵攻したとき、都市の占領直後の数日間の混乱した状況を利用して、個人の住居に侵入して女性たちを、ユダヤ人女性を含めてレイプしていた。
 単独ではレイプなどしない兵士も、共同の犯行には加わっていた可能性がある。集団レイプのさいには同調圧力が大きな役割りを果たし、加えて、それを行うことで、しばしば部隊への忠誠心が強まった。
 パルチザン部隊と赤軍には、あわせて10万人の女性がいた。そのうち半数が武装していた。ドイツ国防軍は、一般的に女性パルチザンも女性赤軍兵士も通常の戦争捕虜とは見なしていなかった。ドイツ国防軍指導部は、これらの女性戦闘員を特別な脅威と見なしていた。兵士が女性を真っ正直に信用してしまい、スパイや武装した戦士であることを理解しないことが懸念されていた。
ドイツ人男性は、赤軍とパルチザン部隊の女性兵士に対して特異な妄想と敵意をつのらせた。パルチザン掃討はドイツ人男性にとって現地女性に対して性暴力を行う口実になった。
ドイツ国防軍当局は、兵士たちが軍の備蓄品で性的取引を行っていることをつかんでいた。交換取引と「同情による施し」によって需要備蓄品の大半が敵の手に渡り、そのためドイツ軍の作戦行動に影響が出るかもしれないと心配した。
 1942年9月、ドイツ国防軍のトップは、「東部地域」で毎年150万人もの兵士の子どもが生まれるだろうと見込んだ。ソ連の占領地域には、500万人ものドイツ兵が駐留していた。その半数は現地女性と性的関係をもつとされ、その半数が妊娠出産に至るだろうとみられた。
 戦後、ほとんどの男性が戦争中の性的な体験について沈黙した。実際、多くの男性が戦場から戻ってきて、うつ病、インポテンツその他の性的問題に悩んでいた。
 戦争は、男性にとっても女性にとっても、人間らしく生きることが出来なくなることがよく分かる本でもありました。
(2015年12月刊。3800円+税)

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