弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年4月27日

民主主義

社会

(霧山昴)
著者  文部省 、 出版  幻冬舎新書

 戦後まもなく、中学と高校でつかわれていた社会科の教科書で、民主主義は次のように説明されていました。安倍首相以下、自民・公明政権の大臣に教えてやりたい内容です。
 民主主義を単なる政治のやり方だと思うのは間違いである。民主主義の根本は、もっと深いところにある。それは、みんなの心の中にある。すべて人間を個人として尊厳な価値をもつものとして取り扱おうとする心、それが民主主義の根本精神である。
 民主主義は、きわめて幅の広い、奥行きの深いものであり、人生のあらゆる方面で実現されていかなければならないものである。
 民主主義は、議員を選挙したり、多数決で事を決めたりする政治のやり方よりも、ずっと大きいものである。
独裁政治になるのを打ち破る方法はただ一つ。それは、国民のみんなが政治的に賢明になること。民主主義では、権威は、賢明で自主的に行動する国民の側にある。それは、下から上への権威である。
国会議員の選挙は、なんといっても最も大切である。国会議員の選挙権は、民主国家の国民の有する尊厳な権利であり、これを良心的に行使することは、またその神聖な責務である。同じ人間が長いこと大きな権力を握っていると、必ず腐敗が起きたり、墜落が生じる。権力が少数の人々に集中しているため、それが薬にならず、毒となって作用する。
 多数の意見だから、その方が常に少数の意見よりも正しいということは、決して言いえない。多数決という方法は、用い方によっては、多数党の横暴という弊を招くばかりでなく、民主主義そのものの根底を破壊するような結果に陥ることがある。多数決の方法にともなう弊害を防ぐためには、何よりもまず言論の自由を重んじなければならない。言論の自由こそは、民主主義をあらゆる独裁主義の野望から守るためであり、安全弁である。
たいせつな政治を、人まかせではなく、自分たちの仕事として行うという気持ちこそ、民主国家の国民の第一の心構えでなければならない。日本人の間には、封建時代からのしきたりで、政治は自分たちの仕事ではないという考えがいまだに残っている。
 しかし、国民は政治を知らなければならない。政治に深い関心をもたなければならない。全体主義は、すべての国々の主権と安全を等しく尊重するのではなくて、「わが国」だけが世界で一番すぐれた、一番尊い国家であると考える。ほかの国々はどうなっても、自分の国さえ強大になればよいと思う。そこから、自分の国を強くするためには手段を択ばないと言う国家的な利己主義が出てくる。外国を武力でおどしたり、力ずくで隣国の領土を奪ったりする侵略主義である。全体主義は戦争の危険を招きやすい。
 およそ、悲観と絶望との中からは、何もうまれてはこない。困難な現実を直視しつつ、それをいかに打開するかを工夫し、努力することによってのみ、創造と建設とが行われる。国民こぞっての努力に、筋道と組織とを与えるものが民主主義なのである。
 まことに現代日本の状況にふさわしい「民主主義」を語る教科書です。1948年10月に刊行されたとはとても思えない新しさです。法哲学者の尾高朝雄や大河内一男などが執筆したと聞くと、さもありなんと合点がいきます。
250頁ほどの新書ですが、ずっしり重たい、感動的な内容です。ぜひ、手にとってお読みください。
(2016年1月刊。800円+税)

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