弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年4月20日

兵士は戦場で何を見たのか

アメリカ

(霧山昴)
著者  デイヴィット・フィンケル 、 出版  亜紀書房

 イラク戦争に従軍したアメリカ陸軍歩兵大隊にアメリカ人ジャーナリストが密着取材しています。この大隊に所属するアメリカ軍の若い兵士たちが次々に戦死していくのです。まだ、20歳前後の兵士たちです。この本には、亡くなった兵士の顔写真も紹介されています。哀れです。死んだ兵士を単なる「数」としてではなく、固有の人生を歩んできた一個の人格ある人間としてみるとき、この顔写真は欠かせません。
 『帰還兵はなぜ自殺するのか』の前編なのですが、なぜか、後篇のほうが先に日本では刊行されました。アメリカによるイラク侵略戦争のむなしさがよくよく分かる本です。武力制圧がプラス効果は何ももたらさないことを実感させる本でもあります。
 大隊の平均年齢は19歳。最年少の兵士は17歳だ。上官は兵士に言った。「これはゲームじゃない。これから恐ろしいものを見ることになる。理解できないものを見ることになる。お遊びの時間はおしまいだ」
 イラクでは、悪臭に覆われている。風が東から吹けば汚れの臭いがし、西から吹けばゴミを焼く臭いがする。北と南から風が吹くことはない。
バグダッドの基地周辺で一番の脅威は、道端に仕掛けられた手製爆弾だ。アメリカ軍の兵士は、全員が少なくとも27キロの兵器と防弾の装備を身につけている。
兵士は防弾チョッキの中に手紙を入れている。この手紙が第三者に読まれるとき、書いた兵士は、この世にはいない。
 だから、助かった兵士は手紙は読まないし、写真も見ない。それが正気を保つこつなのだ。何も知りたくない。死んだのが誰なのか、知りたくない。
 このイラク戦争にアメリカは1日3億ドルも費やしていた。アメリカ軍は、怪しい男2人を捕まえるために、結局のところ35人もの人間を殺してしまった。
 これでは現地の人々のひどい恨みを買ってしまい、戦争が泥沼状態に陥ることは必至ですね・・・。
 アメリカ軍に通訳として協力するイラク人が、作戦基地に数十人いた。そのうちの数人は年収10万ドルを稼ぐイラク系アメリカ人だ。大半は近くに住んでいて、英語を話せるイラク人。その月収は1050~1200ドル。ただし、そのお金と引き換えに、兵士とともに爆弾で吹き飛ばされたり、スナイパーに狙われたり、ロケット弾や迫撃砲弾を撃ちこまれたりする危険があった。さらに、同胞のイラク人からも「よそ者」とみなされる危険があった。
 イラクの戦場で勝者のアメリカが何をしたのか、それはどんな状況だったのかが亡くなった兵士の生きざまを再現するなかで明らかにされていく本です。
 日本が集団的自衛権の行使を容認して行き着く先の状況だと思いました。
(2016年2月刊。2300円+税)

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