弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年4月 3日

ガラパゴス(上・下)

警察

(霧山昴)
著者  相場 英雄 、 出版  小学館

 これは警察小説です。地道に犯人を追い求めてはいずりまわる警察官がいます。その対極に、利権をあさり、有利な転職先を確保しようとする警察官もいます。そして、キャリア警察官は、政権党の有力議員と談合して事件の幕引きを図ります。
 上下2冊の対策です。「警察小説史上、もっとも残酷で哀しい殺人動機」だとオビに書かれていますが、まことにそのとおりです。
 今日の非正規社員ばかりの、人間使い捨ての企業社会の実態が殺人動機そのものになっています。
 「派遣からやっと正社員になれたんだ。あんたらに分るかよ。その日暮らしの不安と、人として認めてもらえないキツさがよ」
 「今までは『派遣さん』と呼ばれていました。それが正社員になると、名前で呼んでもらえます。これが何よりうれしいのです」
 「派遣をクビになったら、ホームレスに落ちて、そこら辺の公園で野垂れ死にする人間がうじゃうじゃいるじゃないか」
 「そういう状況で、人間らしい心なんて、ここ何年かで、すっかり捨てた。そうやって生きなきゃならなかったんだ」
 「運が悪けりゃ、人間として扱ってもらえない世の中にしたのは、誰なんだよ」
 殺された派遣労働者の被害者は、殺され死んでいく過程で、「貧乏の鎖は、オレで最後にしろ」と叫んだ・・・。
 上下2冊の大作ですが、一気に読みにふさわしい内容です。警察内部の葛藤と現代社会の構造的不正がうまくかみあっていて、読ませます。
 それにしても、人間を金儲けのための手段としてのモノとしか扱わない人材派遣業なんて最悪の存在ですよね。それで金もうけしている竹中ナントカという「学者」の品性下劣さは決して許せません。

(2016年1月刊。1400円+税)

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