弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年4月 1日

第二次世界大戦1939-45(下)

日本史(戦前)

(霧山昴)
著者  アント二・-ビーヴァ― 、 出版  白水社

 いよいよ第二次世界大戦の下巻にたどり着き、ようやく読了しました。なにしろ500頁もの大作なのです。そして、内容がずっしり重たいので、そうそう簡単に読み飛ばすわけにはいきません。
 知らないこと、知らなかったことが、いくつもありました。そして、今日的意義のある記述が至るところにあるのです。たとえば、空爆です。イギリスはドイツの都市に住宅爆弾を繰り返しました。大変な被害をもたらしたのですが、戦争終結には直結しませんでした。これは、イギリス空軍の大将のまったく間違いだったと著者は厳しく批判しています。私もまったく同感です。
 イギリス爆撃機軍団を率いるハリス将軍は、都市への戦略爆撃によってドイツを屈服させると豪語していた。しかし、結果は、そうならなかった。むしろ、鉄道線路こそ狙うべきだったのです。そして、工場です。ところが、イギリス軍(ハリス将軍)は安易にも都市住民の虐殺に走ってしまいました。絶滅収容所への線路を叩いてほしいという要請も無視したようです。とても罪深い過ちだったと思います。
 同じように都市への爆撃を重視したのが、アメリカ空軍のカーチスルメイ将軍です。ルメイ将軍は、日本の製造業の中心地帯をひとつ残らず燃やしつくす決意だった。そして、それを着実に実行していった。まさしく日本人大量虐殺の張本人ですが、戦後日本は、そんなルメイ将軍に大勲章を授与しているのです。こんな人物に勲章をやるなんて、日本政府のアメリカへの従属性というか、奴隷根性はどうしようもありません。腹が立ってなりません。
そして、この本は、日本軍に人肉食が横行していたことを再三きびしく指摘しています。
日本兵は糧食不足に悩んだあげく、地元住民や捕虜を食料源とみなした。若い中国人女性を犯し、殺し、喰った。「味が良くて、柔らかかった。豚肉より美味だった」という日本軍兵士の告白が紹介されています。おぞましいばかりです。
 そして、七三一部隊は、中国人捕虜3000人以上を生体実験で無惨に殺していくのに、アメリカ軍はそのデータを入手して、誰ひとり、犯罪者として訴追することはなかったのです。
 こんな事実に目をつぶって、戦争にはひどいことがある。日本だけが悪いことをしたわけではない、なんて開き直るのは許されることではありません。
 自虐史観とかいって、都合の悪いことに目をつむっていては、憎しみあいが増すばかりです。悪いことをしたことに正面から向きあって、はっきり謝罪し、二度しないことを世界の人々に固く誓約することこそ必要な態度だと思います。
 それにしても、スターリンの悪知恵、悪らつさには、今さらながら背筋も凍る思いです。
 チャーチル首相は、終戦直後の総選挙で惨敗しました。それほど、イギリス軍のなかに上官そして、不合理な命令ばかり出していた政府の命令に怒っていた人たちが多かったということです。
スターリンはチャーチルの失墜にショックを受け、ソ連軍をきびしく取り締まったというのです。ジューコフ将軍は、そのあおりを喰らって、しばし冷や飯を食べることになります。
 世の中はタテから見るだけでなく、ヨコからも見る必要があることを教えてくれる本でもありました。ずっしりと重たい戦記本です。ぜひご一読下さい。

(2015年8月刊。3300円+税)

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