弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年3月15日

牛肉資本主義

社会

(霧山昴)
著者  井上恭介 、 出版  プレジデント社

  日本人が「吉野家」で安い牛丼を食べられなくなる日が近づいているようです。
  この本を読んで私が一番すごいと思ったのは、日本でも野放しにして飼育した「野生牛」がいること、そして、完全放牧酪農があるということです。アメリカ流の成長ホルモン漬けの牛肉だけでは困ると思います。「野生牛」というのは、エサは牛が食べるのにまかせるというものです。ですから、肉は今より少し固めになります。それでも、かめばかむほど味わい深いものがあります(あるそうです。私は残念ながら、まだ食べたことはありません)。あまりにも、薬(成長促進ホルモン剤など)に頼った牛肉は、いずれ良くない結果を人間にもたらすこと必至だと思うからです。
  この本を読んで認識したのは、牛肉争奪戦が世界的規模で始まっているということです。その主役は、言わずと知れた中国です。なにしろ、スケールが違います。いま、私たち日本人は「爆買い」の恩恵をいささか受けています(私の住む町までは、まわってきていません)が、よくよく考えると、それは、私たちの食生活を根本から脅かしかねないレベルの話なのです。なにしろ、ケタ違いの数量なのですから・・・。
  いま、中国人のビジネスマンは、牛肉がもうかりそうだというので、投資の対象としている。日本の牛丼屋は、アメリカ産バラ肉に頼ってきた。安く手に入り、味も触感もいい。それがショートプレートだ。ショープレと呼んでいる。
  中国では、これまで「肉」と言えば、豚か鶏だった。しかし、今では、牛がそれらより先に来る。昔の硬い牛肉ではなく、輸入された柔らかい牛肉だ。中国では、いま空前の牛肉ブームが起きている。だから2013年に、牛肉輸入量は、中国が日本を追い越した。
  そして、それは豚でも同じ。世界の半分を中国が食べるという豚肉でも同じで、2013年にアメリカ最大の豚肉加工業者を中国企業が47億ドルで買収した。
  日本は牛肉をショートプレートしか買わないが、中国は、牛を丸ごと買うので、売り手は日本より中国を好む。
中国で「牛肉いため」は800円するのに、日本では牛丼は300円代でしかない。
札幌のジンギスカンは羊肉だが、その羊肉のニュージーランドからの仕入れ価格が3割も上がった。ニュージーランドの農家からすると、同じ面積なら、羊より牛を飼ったほうが、5倍以上も利益が違ってくる。
  何でも安ければいいという発想を変える必要があります。そして、食料の自給率の向上とあわせて、食の安全というのにもっと私たちは気を使う必要があると思いました。

(2015年12月刊。1500円+税)

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