弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年2月16日

「脳疲労」社会

社会

(霧山昴)
著者 徳永 雄一郎 、 出版  講談社現代新書

 ストレスケア病棟から見える現代日本、というサブタイトルがついた本です。著者は、全国初のうつ病専門病棟を開設した精神科の医師です。福岡と大牟田で診察・治療にあたっています。私も海の見える開放病棟に見学に行ったことがあります。
アベ内閣が推進している残業代ゼロ法案は、ますます際限ない長時間労働へと勤労者を追いこんでしまう危険があると著者は指摘しています。
 仕事による強いストレス原因で心の病気になったとする労災請求件数は2014年度は過去最多の1456件、うち支給決定が397件だった。前年を61件も上回っている。
 ホワイトカラー・エグゼブションを導入するのは現状に逆らうもので、過労死をさらに増やしてしまう危険がある。
 日本人は、家庭のストレス(20%)よりも職場でのストレス(50%)から体調を悪化させ、病気になる。この四半世紀で、ますます多くの職場が長時間労働や過重労働で疲労している。労働環境が悪化している。若い勤労者のIT化による脳疲労がすすんでいる。
不知火病院のストレスケア病棟に入院した患者は4000人をこえた。
クレーマーの心理的背景には、淋しさや悲しさがある。大事にされていない淋しさが潜んでいる。だから、逃げない姿勢が大切。逃げれば追いかけてくるが、向き合えば次第におさまってくる。心の奥底には、話を聞いてもらいたい願望が横たわっている。
クレーマーは攻撃しながら相手を細かく観察している。怒りながら、相手が嫌がっていないか、逃げてはいないか、手足の動きまでも細かく見えている。クレーマーには、逆に頼りたい感情が隠されている。そうなんですね。そんな人としっかり向きあうのは大変ですが、避けられませんね。
 上司も部下も、ゆとりをなくすと、感情をコントロールしづらくなる。上司はパワハラをはじめ、部下は上司を攻撃するという逆パワハラを起こす。
 風邪は、うつ病のもと。慢性的な脳疲労の最大の要因は、長時間の労働にある。
 うつ病は、世界的にみても有病率が高い。WHOによると、全世界の人口の5%、3億5000万人以上がうつ病に苦しんでいる。
うつ病治療の基本は、一に休養、二に薬物療法、三に再発防止のためのカウンセリング。
脳疲労を防止するためには、70%のエネルギーを会社で使い、30%のエネルギーを家庭のために残すこと。
著者は、私と同じ団塊世代です。実は、中学校の同級生なのです。これまで、たくさんの啓蒙書を出しています。今回も贈呈してもらいました。ありがとうございました。お互い、引き続きがんばりましょう。


                           (2016年1月刊。760円+税)

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