弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年2月 5日

ヴィクトリア女王の王室

イギリス

(霧山昴)
著者  ケイト・ハバード 、 出版  原書房

19世紀イギリスのヴィクトリア女王の宮廷の実情が女王付きの女官の生活を通じて明らかにされている本です。
宮廷というのは、とんでもなく退屈な空間だったことがよく分かります。私なんか、とても耐えられそうにありません。
空想以外には何の退屈しのぎもなく、何時間もただひたすらじっと待機しているだけの状態が続く。「命令」を待つだけの終わりのない待機。頭ごなしの命令を受け入れるしかなく、義務にがんじがらめにされるだけ。宮廷は、毎日が同じことの繰り返しで、それが毎年続いていく。ウィンザー城の生活は、おだやかな退屈とともに進んでいった。
ヴィクトリア女王は、誰がどの部屋に泊まるのか、誰が馬に乗って、誰が馬車に乗るのか、さらには食堂に入るときにつくる列の順番まで決めていた。つまり、訪れる者たちのあらゆる行動を管理していた。
王室というのは息苦しい閉鎖空間だ。少人数で、互いを思いやる必要がそれほどなく、暇をもてあまし気味で、しかも家族や友人といった外の世界とは切り離されている。そこでは、ほんのわずかなゴシップの種にも飛びつき、むさぼる者が大多数だった。
ヴィクトリア女王は独立心の権化とも言える存在だった。女王が下す判断は本能的かつ断定的で、自分が愛する人々に対しては熱狂的に、ときには盲信的なまでに忠実だった。他方、自分が気に入らなかったり、それ以下の感情を抱いた相手に対しては、徹頭徹尾、冷ややかに接した。
女王に近づいたり離れたりする際の決まりがあった。ドレスの裾をどうやって持ちあげるかについても規則があった。離婚した女性は夕食には同席できなかった。
ヴィクトリア女王にとって、子どもたちは、人生にとってもっとも大きな喜びである夫・アルバートとの人生における障害物だという意識を捨てることができなかった。
エリザベス一世の時代、女官たちは、上から寝室付きの女官、私室付きの女官、女官、未婚の女官と、4つの階級に分かれていた。ヴィクトリア女王の女官は大部分が下流貴族の妻や未亡人や娘たちだった。
宮廷では、自由な意思と自主性は捨てる必要があった。そこでは、辛抱と自制心、そして寛容の精神が求められた。
イギリスの女王の宮廷生活の一端を知り、その恐ろしい退屈さを知って、身が震えてしまいました。可哀想な人生としか私には思えません。創意や工夫が許されない生活だなんて・・・。人間らしさが感じられません。

(2014年11月刊。2800円+税)

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