弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年2月 3日

新時代を切り拓く弁護士

司法

(霧山昴)
著者  本林 徹 、 出版  商事法務

 これは素晴らしい本です。文句なしに面白い。
 私は編著者より贈呈を受けて、一日のうちに2時間かけてじっくり熟読玩味、読み切りました。大切だと思えるところに赤鉛筆でアンダーラインを引きますので、この本のいたるところが真っ赤になってしましました。
 弁護士とは何か、何をする人なのか、弁護士はどこに工夫し、知恵を絞るのか、そこにどんな困難が待ち構えていて、それをどうやって突破していくのか・・・。
 また、弁護士の「営業努力」の要点は何か、弁護士にとって何が大切なのか・・・。
 東京と大阪においてビジネス法務の最前線で活躍する10人の弁護士が自分の体験を惜しみなく語っています。
 編者は日弁連の元会長です。東京で若手意欲あふれる弁護士100人の前で語られた本林塾の講演録が本になったのです。面白くないはずがありません。弁護士として活動していくヒント満載ですから、まさしく価値ある2300円、安いものです。ぜひ、買って読んでください。
先日、福岡の敬愛する野田部哲也弁護士から、弁護士の仕事に役立つ本をこのコーナーで紹介してほしいという注文を受けましたが、この本は、まさしく私のイチオシの本です。
 本林弁護士は、友だちを大事にする、友人は宝だと考え、無償サービスをいとわないでやってきた。頼みごとを受けたら、嫌な顔をせず最優先で対応する。大学のクラス会も永久幹事を引き受け、友人たちの消息をつかんでおく。少し長期的な視野でものを考えるようにする。顧問先の会社では担当者との絆をふだんから強めておく。会社のなかに自分のファンをつくっていく。依頼者を集めて、毎月のように一緒に研究会をし、年に1回は大規模なセミナーや懇親パーティを開く。
 交渉にあたっては、相手との依頼関係を築きながら、情熱と人間的魅力をもって説得する。そして、社会に役立つことをする。人がやったことのないことに挑戦する。人に喜んでもらえたことを励みにする。これが自分を支えてきたモチベーションだ。
 弁護士は、道草や趣味が不思議に生きる職業である。今井和男弁護士は、優れた弁護士になるためには、優れた弁護士になりたいと強く思って行動することだと言います。
 私も何人か憧れの先輩弁護士がいて、その先輩たちのようになろうと努力してきて、今日に至っています。もちろん、先輩のようになれたとは思っていないのですが、座標軸というか、具体的な目標があるので、ぶれることがありません。
ビジネス社会は大変狭くて、悪い評判はすぐに広がり、良い評判は徐々に広がっていく。
 弁護士にとって必要なものは、信念、お金、ビジネス、判断力、愛嬌、心遣いだ。
 「あなたが決めて下さい」と突き放すのではなくて、一緒に考え、私はこう思うと言う。背中を押して進んであげることが大切。
 暗い状況で来た人を、一筋の光明が見えるようにする。少しの希望をもって帰っていってもらう。その意味で、弁護士は慎重な楽観主義者であることが大切だ。
 國廣正弁護士は、企業は社長の持ち物ではないと強調します。企業は株主、従業員、取引先、顧客というステークホルダーに囲まれた存在である。だから、悪いものは悪いと言うこと、それがまさしく危機管理であり、企業が生き返るために必要なこと。
 弁護士は目の前にある仕事を一生懸命やること。それが結果につながる。
 何か新しい分野をいきなりやるよりも、自分の領域から進めていって、一歩だけ踏み出した仕事をしてみる。
書面にするとき、一回飛んで、すっと頭に入るものになるよう文章は推敲を重ねる。書面は読んでもらうものなので、錯綜した事実関係をきれいに整理して、易しい言葉で分かりやすく書く。
 弁護士はたたかうべきときにはたたかわなければいけない。事実を隠したって必ずばれるし、企業の成長には絶対に訳に立たない。プロフェッショナルとしての弁護士の使命感をもち、究極的には会社のためになると思って、障害を乗り越えていく。
 松村謙一弁護士は、人間は二度死ぬと言います。一つは肉体の死。もう一つは記憶から忘れ去られたときの死。父親も弁護士だった矢吹公敏弁護士は、人を助けてお金がもうかるなんて、こんな良い仕事はないと小学生のときに思って弁護士を志望した。
今の私も、申し訳ありませんが、そう考えています。
矢吹弁護士は、いつも考えているとのことです。歩いても、お風呂に入っていても、何をしていても常に事件を考え、問題点を考えている。これが大切だ。雨垂れ、石をうがつ。ぽとぽとと粘り強く落ちていけば、いつかは石にも穴があくと信じてとにかくやってきた。
 牛島信弁護士は、敵対的買収に関する仕事は、難しいから面白いとします。 
 会社は何のために存在しているのか。会社が存続し続け、毎月、毎年、給料を払い続けることの意味は大きい。会社は社会(雇用)のためにある。人間は、仕事を通じて社会につながることで社会と対等の関係を結ぶことができ、また自立していると感じることができる。
 そして、雇用は緊張感の下になければいけない。
 自尊心のない人間には、人生への幸福感はない。ビジネスマンは日本に雇用をつくり出している。雇用は人々の人生の幸せをつくり出している。
 準備書面は、読みはじめた瞬間から、読んでいくと興味が尽きないように書かれるべきもの。そうか、よく分った。こういう事件なのか、よく分ったよ。息つく暇もなく読み終えて、よく分った。裁判官にそう思わせなければいけない。弁護士は、裁判官の癖もふまえて、きちんとした書面を書いて提出しなければいけない。それを先方の責任に転嫁するようでは、弁護士バッジは返上すべきだ。自分の好奇心にしたがって世の中のことに興味をもつこと。これが弁護士には欠かせない。
 なるほど、なるほど。この指摘には私も大いに反省させられました。
 久保利英明弁護士は、弁護士にとっての営業能力とは、他人(ひと)の話をよく聞いて、コミュニケーションをとって、目の前の人が何に困っているかを探りあてて、迅速に解決してあげることに尽きると断言しています。
 弁護士の本質は正義のための闘争業者だと思うから、人と争うのは嫌だという人には向かない。ただ、闘争が好きで好きでたまらないという人も本当は向かない。正義が好きで、正義のためにはやむをえず闘うこともいとわれないという人が一番向いている。
 私自身も、他人との争い事は好みません。争いの現場からはさっと身を退いて立ち去りたいのです。でも、これは黙っておられないと思ったときには、一言いうようにしています。腕力にはまったく自信がありませんので、口で言うしかありません。
 本当に役に立つ本です。弁護士生活40年以上になる私ですが、改めて、弁護士の仕事の奥深さを感じました。ぜひ、あなたもお読みください。

          (2016年2月刊。2300円+税)

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