弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年1月22日

ザ・カジノ・シティ

アメリカ

(霧山昴)
著者  デヴィッド・G・シュワルツ 、 出版  日経BP社

 日本にもカジノを導入しようという動きがあります。例によって自民・公明が推進勢力です。全国いたるところにパチンコ店があるギャンブル大国ニッポンにカジノを導入したら、日本もアメリカ並みの犯罪大国になってしまうのを恐れます。カジノなんてタバコと同じで、百害あって一利なしです。カジノも、アメリカをダメな国にした理由の一つだと私は考えています。
この本は、ラスベガスにカジノ・ホテルを導入したホテル王、ジェイ・サルノの一生を明らかにしています。ジェイ・サルノは病的なギャンブラー狂でした。
ジェイ・サルノは、想像力を極限まで高め、ホテルの顧客をいかに喜ばせるかをいつも考えている男だった。ホテル王としての夢を実現するための資金集めの苦労、それにつけ込むマフィアとの攻防、マフィアを阻止しようとする政府機関(税務当局)の戦いが紹介されている本です。
ジェイ・サルノは病的としか言いようのないギャンブル癖、1日15時間にも及ぶ絶え間のない食事、同じほど激しい女性への欲望も遠慮なく描かれている。
ジェイ・サルノの根底にあった哲学は、「自らを甘やかすのに後ろめたさを感じる必要はない。それは、むしろ祝福すべきものだ」
ジェイ・サルノの時代は長続きしなかった。カジノ産業はマフィアの黒い資金から訣別し、ウォールストリートから資金を導入するようになった。カジノが良いビジネスになることに気がついたのだ。
ジェイ・サルノはユダヤ人。ユダヤ人に対しては、さまざまな形の社会的制約があった。ホテル・ビジネスは映画産業と並んでユダヤ人が入り込みやすい業界だった。
頭のいいユダヤ人は、弁護士や銀行家、医師になり、古い壁を打ち破って法律事務所や証券会社で大金を稼いでいた。
虔敬なユダヤ教徒は、埋葬時にシンプルな白の埋葬布を身にまとう。これは、死によって生前の富や特権が完全に無に帰すことを表すものだ。また、埋葬は死の翌日に行われる。
ところが、宗教を毛嫌いしていた父親の意向を尊重して、ジェイ・サルノの死後、非宗教的な葬式を子どもたちは行った。「宗教的な人間は馬鹿だ」と考えていた人間を宗教的に見送るのは偽善的だと考えたからだ。
しかし、葬式とは、死んだ者のためというより、残されたもののためになされるものだ。あとになって、子どもたちは後悔した。
カジノは人間性を損なうものだということを明らかにした本でもあります。
(2015年11月刊。1900円+税)

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