弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年12月11日

「刑務所」で盲導犬を育てる

(霧山昴)
著者  大塚敦子 、 出版  岩波ジュニア新書

  とても素晴らしい取り組みだと思いました。「刑務所」で収容者が盲導犬を育てるというのです。
  子犬が産まれてから盲導犬になるまで2年もかかる。子犬は生後2ヶ月までは母犬のそばで兄弟と一緒に育つ。そして、その後の10か月間を「パーピーウォーカー」と呼ばれるボランティア家庭に預けられ、人の愛情をりっぱに受けて育つ。1歳になると、盲導犬訓練センターに送られ、6ヶ月から1年ほど、プロの訓練士による本格的な訓練を受ける。そして、次に視覚障害者との共同訓練をして、2歳で盲導犬デビューをする。と言っても、実際に盲導犬になるのは3~4割ほど。
  パピーウォーカーのものとで育つ10ヶ月間は、盲導犬になるための「社会化」をする非常に重要な時期。「社会化」とは、人間や人間の暮らす環境に慣らし、人間社会で生きていける犬に育てるということ。
  盲導犬になるためには、愛情を注いでくれる人のもとで、規則正しい生活リズムを身につけ、人混みや駅、電車や車、雨や雪など、さまざまな状況を経験し、人間社会に暮らすためのルールを学ぶ必要がある。何より肝心なのは、その過程で人間に対する信頼を築くこと、人間のために働くのが楽しいと思えるような犬を育てることが、パピーウォーカーのもっとも重要な仕事だ。
  島根あさひ社会復帰促進センターは、日本で4番目の「PFI刑務所」。ほかには山口県の美称、兵庫県の播磨、栃木県の喜連川にある。PFI刑務所は民営刑務所ではない。民間の資金とノウハウを活用して、施設の建設、維持管理・運営をおこなう刑務所。公権力の行使は国の責任。民間は、受刑者の給食、清掃、警備、受付などを担当する。
  日本の刑務所の収容者は2万3千人ほど。男性のほうは定員オーバーの過剰収容状態は解消された。男性は2007年(H19)より減少傾向にある。ところが、女性の収容者は増え続けていて、20年前の3倍にもなっている。
  PFI刑務所では、全員が職業訓練を受けられる。
  国が負担する受刑者1人当たりの費用は、年間250~300万円。
  刑務所で盲導犬を育てるという試みは、アメリカで始まり、成功したといいます。
  犬を訓練するうちに、人間への不信や怒りに満ちていた受刑者たちが、再び人間を信じる心を取り戻していった。人を傷つけただけでなく、みずからも深く傷ついた受刑者たちが、命あるものをケアし、誰かの役に立つ経験をすることで、自分自身を肯定し、他人をも尊重できるようになっていった。
  心温まる本です。犬派の私には涙がこぼれそうなほど、うれしい本でもありました。


(2015年2月刊。840円+税)

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