弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年12月 5日

狙撃兵、ローザ・シャニーナ

ロシア


(霧山昴)
著者  秋元健治 、 出版  現代書館

  ナチス・ドイツ軍と果敢に戦うソ連赤軍の女性狙撃兵の活躍ぶりを紹介したドキュメンタリーノベルです。史実にもとづき、兵士の書いていた日記も紹介していますから、迫真の描写です。なにより驚くのは、これがソ連の従軍記者(グロスマン)によるものと思わせるほどの描写で一貫していることです。日本人が翻訳したのではなく、執筆した本なのです。
  私は、ソ連軍の女性兵士の活躍ぶりを描いた『戦争は女の顔をしていない』(群像社)、そしてベトナム戦争のときに最前線で戦っていた女医の日記を再現した『トゥイーの日記』を思い出しました。まだ読んでいないという人には、ぜひとも本書とあわせて、この2冊も読んでほしいと思います。戦争の非情さ、二度と戦争なんかしてはいけないということが、惻々と伝わってきます。
  独ソ戦時の1943年、ソ連赤軍には、2000人以上の女性襲撃兵がいた。
  狙撃兵は、歩兵部隊の戦術において効果的に運用された。狙撃の標的となるのは、第一に指揮官。次に機関銃射撃兵、そして狙撃兵自身の最大の脅威となる敵の狙撃兵である。
  1944年5月、東欧戦線においてドイツ軍の劣勢は確実になっていた。しかし、装備や練度でまさるドイツ軍の反抗戦はすさまじく、ソ連赤軍は戦線維持や攻略戦に勝利したとしても、その戦死者はドイツ軍よりも多かった。
  ソ連赤軍では、2000人以上の女性狙撃兵が任務についた。そのうち戦後まで生きのびたのは500人だけ。従軍した女性狙撃兵の7割以上が戦死した。
  ソ連の記録によれば、大戦中の赤軍に49万人の女性兵士がいて、そのうち9万5千人が戦死した。
  劣勢となったドイツ軍は、ソ連赤軍の制圧地域に狙撃兵を送り込み、赤軍の将校やその他の兵士に対する狙撃を活発化させた。広範な地域に潜伏する敵の狙撃兵に対する有効は手段は狙撃兵しかない。カッコーと呼ばれたドイツ軍の狙撃兵は、よく訓練されていて、優秀だった。ドイツ軍の狙撃銃は、命中精度や耐久性が高かった。
  本書の主人公は、3冊の日記を残しました。当時のソ連赤軍は、兵士が日記をつけるのを厳しく禁止していたにもかかわらず・・・。よくも、そんな日記が残っていたものです。
  日本軍は、兵士が日記をつけるのを禁止していませんでした。それで、戦闘で倒れた日本兵の日記をもとにアメリカ軍は情報分析することができました。
  ソ連赤軍が日記を禁止していたのは、なぜでしょうか。文字の読み書きができない兵士が多かったということもあるのでしょうか・・・。
  日本人にしては、よく調べて小説になっていると、驚嘆しました。
  それにしても、ヒトラーもスターリンも、人間の生命をなんとも思っていなかったことに改めて怒りを覚えてしましました。日本のアベ首相も勇ましいことを言っていますが、本当に私たち国民の生命を尊重しているとは思えません。

(2015年10月刊。2500円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー