弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年11月23日

虫めづる姫君

日本史(平安時代)

(霧山昴)
著者  作者未詳(蜂飼耳・訳) 、 出版  光文社古典文庫

  「堤中納言物語」は、平安時代後期から鎌倉時代にかけて書かれた短編物語集。作者も、編者も不明のまま。
  当時は、歌の贈答がとても重要だった。だから、歌の力を書いた物語は、大いに好まれた。なかでも、特筆すべきは、この本のタイトルになっている「虫めづる姫君」。「あたしは虫が好き」と現代文に訳されています。
  毛虫って、考え深そうな感じがして、いいよね。そういいながら、朝に晩に毛虫を手のひらに這わせる。毛虫たちをかわいがって、じいっと、ごらんになる。
「人間っていうものは、取りつくろうところがあるのは、よくないよ。自然のままなのが、いいんだよ」
  この姫君は、そういう考えの持ち主だ。
  世間では、眉毛を抜いてから、その上に眉墨で書くという化粧が一般的なのだけれど、そんなことはしない。歯を黒く染めるお歯黒も、おとなの女性ならする習慣なのに、めんどうだし、汚いと言って、つけようとしない。白い歯を見せて笑いながら、いつでも虫をかわいがっている。 
「世間で、どう言われようと、あたしは気にしない。すべての物事の本当の姿を深く追い求めてどうなるのか、どうなっているのか、しっかり見なくちゃ。それでこそ因果関係も分かるし、意義があるんだから。こんなこと、初歩的な理屈だよ。毛虫は蝶になるんだから。
とはいえ、この姫君は、御姫様としての作法をまったく守らないわけでもない。たとえば、両親と直接、顔をつきあわせて対話することは避ける。鬼と女は人前にでないほうがいいんだよ、と言って、自分なりの思慮を働かせている。
毛虫は脱皮して、羽化して、やがては蝶になる、物事が移り変わっていく過程そのものにこの姫君は関心を持っている。
  つまり、探究心をお持ちなのです。
  身近に雑用係として置く男の子たちの呼び名も、一般的なものではつまらないと考え、虫にちなんだ名をつける。けらず、ひきまろ、いなかたち、いなごまろ、あまびこ。姫君は、そんな名を男の子たちにつけて、召し使っている。
  すごい話ですよね。まるで現代の若い女性かのような行動と言葉です。古典といっても、ここまで来ると、まさしく現代に生きています。
(2015年9月刊。860円+税)

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