弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年10月21日

オープンダイアローグとは何か

人間

(霧山昴)
著者 斎 藤  環   出版 医学書院
 
統合失調症について、フィンランドですすめられている画期的な治療法を紹介した本です。それが、あまりにもシンプルな内容なので、本当に治療法として有用なのか、いささか心配になりますが、まずは紹介してみます。
このオープンダイアローグを導入した西ラップランド地方における統合失調症の入院治療期間は平均して19日間も短縮された。この治療によって、服薬を必要とした患者は35%。2年間の予後調査で82%は症状の再発がない。再発率は24%にすぎない。いわば、これは魔法のような治療なのである。
オープンダイアローグは、急性期精神病における開かれた対話によるアプローチとも呼ばれる。主たる治療対象は、発症初期の精神病。
最初に相談を受けた人が責任をもって治療チームを招集し、依頼から24時間内に初回ミーティングを行う。治療チームの源流は、家族療法である。
ミーティングには、対話を先導したり、結論を導いたりする「議長」「司会者」はいない。そして、専門家が指示し、患者は従うだけという上下関係はない。本人を抜きにして、いかなる決定もなされない。ミーティングは、1時間半程度で終える。
オープンダイアローグでは、はじめから診断がなされることはない。あいまい。
このあいまいな状況に耐えながら、病気による恐怖や不安を支えていく。不確実性への不安を支えるのが、繰り返されるミーティングと継続的な対話である。
オープンダイアローグでは、参加者全員が尊重される。平等で自由な「空気」をつくり出し、何かを決定するのではなく、対話の継続それ自体が目的であるような対話がなされる。
ミーティングでは、全員がひとつの部屋で車座になって座り、その場で自由に意見交換する。
同じチームが一定期間がかかわりを持ち続けることが、とても大切なこと。
オープンダイアローグにおいては、聴くことは質問することよりも重要。意見がくい違ったときに大切なことは、正しいか間違いか、白黒をはっきりさせることではなく、すべての声が受け入れられ、傾聴とやりとりが促されること。
精神病的な反応があったら、それは患者が自分の経験したことをなんとかして意味づけようとする試みとして理解すべき。
ミーティングにおける治療チームの重要な仕事は、患者との関係者が対話の主導権を握れるようにもっていくべきこと。
ミーティングのプロセスをゆっくりと進めることが、ことのほか重要。
ダイアローグ(対話)は、モノローグと異なり、他者を受動的な存在とみない。
治療チームは、早口で話したり、結論を急いだりすることがないよう用心する。
精神病患者の幻覚には、トラウマ体験が隠喩的な形で取り込まれている。
人は、自分の言葉がきちんと聞いてもらえていることが分れば、自身も他者の経験や意見に耳を傾けて、関心を持つようになる。
 とても分かりやすい本でした。でも、本当に治療法として大丈夫なのか、いささか心配になったのも正直なところです。
(2015年8月刊。1800円+税)

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