弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年10月20日

勝者なき戦争

社会

(霧山昴)
著者 イアン・J・ビッカートン   出版 大月書店
アベ内閣がすすめているのは、日本を再び戦争する国へつくり変えること。戦前の軍国主義ニッポンを美しい国だなどとごまかし、日本の若者を大義なき戦場へ駆り出そうとしています。この本は、戦争とはどういうものなのかを冷静に考えるうえで参考になる実例をたくさん提供しています。
戦争を始めることは、その目的達成を不可能にしてしまう、リスクの髙い行為である。
戦争における勝利は、それに見合った好ましい結果をうむことはなく、戦争の犠牲はあまりにも大きすぎる。
現実には、戦争による犠牲は、過去にも現在も、払うに見合う価値はない。戦争は、降伏式典や紙吹雪が舞うパレードによって終わることは決してない。
戦争とは、すべてが曖昧な混乱のなかで終わるものであり、獲得したものよりも失われたものを認めるほうが、はるかに容易だ。
戦争における勝利の笑顔は、偽りであり、それは仮面にほかならない。勝利の顔は、結局敗北の顔と同じく「死に顔」であり続ける。
陸軍大将、海軍提督そして空軍司令官は明らかに戦争での勝利から恩恵を受けてきた。名誉と称賛を得て、感謝する大衆や国民によって政治家としての道が開かれる。しかし、一般兵士のほうは、恥や不名誉を感じることはあったとしても、報酬を受けることはめったにない。
戦争は国家を破綻させるか、あるいは経済的苦境を生み出し、大部分の人々を悲惨な状況に追いやる。
戦場での勝利が、持続的な恒久的な平和に導くことはない。戦場での勝利は、戦闘の短期的停止という、わずかな政治的機会を勝利者に与えるにすぎない。戦場で勝敗を決した戦争は、これまで存在していない。
戦争においては、「純粋に」軍事的な勝利という結果は存在しない。
戦争のもたらす結果とは、殺戮と破壊にほかならない。戦時においては、何千、何万、何百万もの人々が、戦闘員か非戦闘員であるかを問わず、殺害され、傷つかられ、暴行される。無数の家々や村、町、都市が破壊され、農業や産業基盤が大損害を受ける。戦勝が卑しむべく独裁者を排除するために戦われることは、まったくない。
戦争は、より一般的には領土的、経済的膨脹という欲望を偽装するイデオロギー上の理由のために戦われる。
戦争は、指導層の少数集団によって計画的な計画的になされた決定による結果である。恐怖、名誉、利害という三つの要素に駆り立てられた結果である。すべての戦争は、地位、栄誉、称賛の計算を含んでいる。
戦争は、想像力の欠如であり、戦うために召集された人々の生命を恐ろしいくらいに軽視する。
戦争をヒロヒト個人の責任にしてしまえば、あまりにも単純化してしまう。
戦争を個人の責任に帰すると、戦争を過度に単純化することになる。
戦争によって失われた生命は、ほとんど省みられることはない。
勝敗にかかわらず、戦争は戦争当事国の社会に十分な民主主義的な経験を提供しない。
庶民にとって戦争はまったく割りの合わないものだと言うことが分かりやすく解明されています。

(2015年5月刊。3600円+税)

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