弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年10月18日

常識外の一手

人間

(霧山昴)
著者 谷川 浩司   出版 新潮新書
 
定跡(じょうせき)。定跡を指しているだけでは、プロ棋士の世界で勝ち抜くことは出来ない。また、最新の棋譜を追いかけて研究しているだけでも勝てない。
なぜか、、、?
本筋しか指せない人は一流にはなれない。つまり、定跡、常識に沿っているだけでは、プロの中で頭角をあらわすことはできない。本筋をわきまえたうえで、さらに「常識外の一手」を指せるかどうか、ここが重要だ。
どれだけの選択肢があるか、、、。オセロは10の60乗。チェスは10の120乗。将棋は10の220乗。そして囲碁はなんと10の360乗。
正しく先を読むためには、直観こそが重要。日々、研究にいそしんでいるのも、実戦で正しくこの直観が働くようにするため。多くの可能性があっても、その9割以上は直観で捨てて、残りの1割をより掘り下げて検討している。
直観を養うために必要なのは、知識、経験、個性、そして流れ。
初心者と達人は紙一重。深い修練の先にこそ「常識外の一手」がある。
コンピュータと対局するときには、事前に長い時間をかけて、コンピュータの指し手を研究しなくては勝利を望むことはできない。
若いころは、一直線の手順は詰めても、手広く読むことができない。逆に年齢が上がると先まで読む力は落ちるが、経験によって大局観が鍛えられて、深く読めない代わりに広く手を読むことができる。若いころは「狭く深く」、年齢を重ねるほど「浅く広く」考えるようになる。
勝負にかかわる環境や条件をすべて味方につけて、自分の力を最大限に発揮できるのが本物の勝負師といえる。
プロ棋士であれば、自分の感情をうまくコントロールできるのは当然として、勝負事では相手を威圧するような迫力も大切である。
気合十分の棋士は全身から闘志があふれ出るように感じられる。
プロ棋士のすごさを知ることのできる新書でした。
(2015年6月刊。700円+税)

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