弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年10月 7日

「走れ、走って逃げろ」

ヨーロッパ

(霧山昴)
著者  ウーリー・オルレブ 、 出版  岩波少年文庫

 第二次大戦前、ポーランドに住んでいたユダヤ人の少年が苛酷すぎる状況を生きのびていく実話です。私は、この本を読む前に、映画『ふたつの名前を持つ少年』をみていました。
 ひとつの名前は愛を、もうひとつは勇気をくれた。
 1942年、ポーランドのワルシャワにあったゲットー、ユダヤ人の居住区から8歳の少年が逃げ出した。どこへ行けば安全なのか・・・。
 ユダヤの少年は、本当の名前スルリックからユレク・スタニャックというポーランドの名前に変える。そして、キリスト教徒らしく祈りの作法を教えてもらう。それでも、ユダヤ人の割礼は隠せない。裸になったときに、それを見せられて、通報される。そして、逃げる、逃げる。森へ逃げて、子どもたちの集団に入り、また一人きりで生きのびる。
 わずか8歳か9歳の少年が、森の中で一人きりで過ごすという状況は、信じられません。
 助けると思わせてゲシュタポ(ナチス)に連れ込む農民がいたり、重傷の少年をユダヤ人と知ると手術もせずに放置する医師がいたり、ひどい人間がいるかと思うと、なんとかして少年を助けようとする大勢の善良な人々がいるのでした。そんなこんな状況で、ついにユダヤの少年は戦後まで生きのびることができました。でも、右腕を失っていたのですが・・・。
 少年役が、ときどき表情が違うのに、違和感がありました。あとでパンフレットを買って読むと、なんと性格の異なる一卵性の双子の少年を場面に応じてつかい分けていたというのです。なーるほど、と納得できました。
 いかにも知的で可愛らしい少年ですから、本人の生きようとする努力とあわせて、視た人に助けたいと思わせたのでしょうね・・・。
 逆にそう思われなかったり、チャンスを生かせなかった無数の子どもたちが無惨にも殺されてしまったのでしょう。戦争は、いつだって不合理です。安倍首相による戦争法は本当に許せません。
 この本は、映画の原作本です。もっと詳しいことが判りますし、子ども向けになっています(団塊世代の私が読んでも面白いものですが・・・)。
 なにしろ、森の中で、どうやって生きのびろというのか、私にはとても真似できそうもありません。子どものうちに、こんな本を読んだら今の自分の生活がぜいたくすぎることを少しは反省するのでしょうか・・・?
 でも、戦争を始めるのは、いつだって大人です。子どもは、その犠牲者でしかありません。

(2015年6月刊。720円+税)

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