弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年10月 1日

軍艦島の生活

社会

(霧山昴)
著者  西山夘三記念すまい文庫 、 出版  創元社

 長崎の無人島、端島は軍艦島と呼ばれ、今では日本でも有数の知名度を誇っています。
 私は行ったことがありませんが、私の家族は行っています。軍艦島ツアーは、今や人気抜群なのです。今では完全な廃墟となっていて、無人島なわけですが、最盛時には、5000人もの人々が住み、小中学校、そして幼稚園、映画館などもあって炭鉱の島として栄えていたのでした。そこに住んでいた人は、当時をなつかしみ、パラダイスだったといいます。
 「何もかもあけっぴろげで、住民同士みんな思いやりがあり、おまけに住居費はタダ、光熱費も安く、賃金も悪くない。5年がんばれば炭鉱年金がつく。こんなに住みよい天国のようなところは他にない」
 本当にパラダイスだったのか・・・。この本は、疑問を呈し、写真とともに実情を明らかにしています。この島に住むと、外部との電話は「外勤詰所」の公衆電話しかなく、夫婦ゲンカをすると、その日のうちに会社に伝わる。完全な管理社会。会社による労働者の生活管理はズボラ休みを防ぎ、出稼率を上げ、島内の秩序を維持するため、徹底的に行われた。
坑内事故によって、215人の犠牲者も出ている。
水道、ガス、水洗便所、家電や家具の普及は早かった。
水問題は深刻であり、海が荒れると、島はまったく絶縁状態になる。
 水洗便所といっても海水を利用するので、十分に腐敗しないまま海に放流することになって、衛生上の問題があった。
部屋に風呂はなく、共同風呂だった。
 この本には、1952年と1970年に住宅調査に入った西山調査団による写真がたくさん紹介されていて、軍艦島での人々の生活の様子が生々しく再現されているのが最大の特色です。その意味で、本当に貴重な本だと思いました。

     (2015年6月刊。2500円+税)

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