弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年9月30日

エンタテイメントの作り方

社会

(霧山昴)
著者  貴志 祐介 、 出版  カドカワ

  小説の本質は妄想である。
  この言葉を読んで、のっけから、私はとても小説家になれそうにはないと腰が引けてしまいました。いえ、私が妄想しないというのではありません。しかし、すぐに現実論が妄想を追い払ってしまうのです。
  いかに詳細に説得力をもって妄想できるかが、勝負の分かれ目なのだ。そして、どこまでオリジナリティのある、つまり異様な妄想を紡(つむ)げるのかが重要なのである。
  うひゃあ、ここまで言われたら、モノカキ思考の私としても新たな壁に挑戦せざるをえません。難しいですが、がんばります。
小説のアイデアというものは、じっと待っていれば天啓のように降ってくるものではない。アイデアの種を拾い上げるためには、こまめにメモを取ること。アイデアらしきものが脳裏をよぎったら、すかさずメモして、ストックしておく。常にメモを携帯することは欠かせない。
  アイデアメモが、着想を掌中に引き込むための第一の役割を果たす。
 アイデアは、一瞬のひらめきのことが多い。浮かんだら、そのつどメモしてつなぎとめておくことが重要。忘却とのたたかいだ。そして、なるべく早くアイデアノートに整理する。面倒くさがらすにこまめにメモを取り、それをアイデアノートに昇格させていくことを習慣化する。
  実は、私も長年これを実践しています。トイレの中にこそメモ用紙は置いていませんが、寝室のそばに、また車中にメモ用紙と太ペンを常時おいています。寝ているときに浮かんだアイデアは、起き上がって明かりをつけてメモします。車中では、交差点で停まったときに素早くメモしています。いいアイデアが生まれたと思ったとき、かえってスムースに車が流れてメモができず、そのうち忘れることがあります。そうならないため、走行中でも、脇見運転にならないように注意しつつ、太ペンでメモに殴り書きします。このときのメモ用紙はカレンダーの裏紙を使います。ちょうどよい固さなのです。
想像力を膨らませる思考訓練をする。日常生活によくあるフツーの出来事を「ひとひねり」してみるのだ。アイデアには、熟成期間が必要だ。
想像力をめぐらせて、現実にはありえない世界をつくり出していく。これこそが小説の大きな醍醐味と言える。
 ジャンルやメディアを問わず、多くの作品(前例)に触れておくことは、クリエイティブを志す人間にとって大切なこと。いつか必ず血となり、肉となる。
 私が書評として、こうやって毎日一冊の本を紹介しているのも、いつかきっと私の小説(ベストセラーを目ざしています)の血となり肉となる、こう信じてのことなのです。
 すべての判断基準は、面白いかどうか、なのである。
これまでの私には、この観点がまったく欠けていました。自分として訴えたいこと、そればかりが先行していて、読み手の身になっていなかったのです。それで、いま挑戦中の小説には「面白味」を最大限もり込みたいのですが、日々の生活が面白味に欠けると、それもまた困難です。
 実在の舞台をつかうときには、できるだけ現地をつぶさに、足で歩くように心がける。すると現場にしか存在しない、無形の情報が価値を持ってくる。取材はディテールを深めるために有効な手段だが、知ったことをすべて使わないのも鉄則だ。
 キャラクターの名前は、意外に重要だ。主人公には、現実離れしない程度に「華」のある名前をつけたい。
 私も、小説の登場人物のネーミングには、それなりに気を使っています。
主人公は、読み手がごく自然にその心中を想像できる人物でなければならない。読者の感情移入を促すためには、読者に近い立場のキャラクター設定するのが有効。
 一行目の書き出しがスムースに口火をきれるかどうかは、自分自身がどれだけその世界に入り込めているかにかかっている。
 文章における読みやすさとは、万人にとってストレスなく読み進められるものであることが第一条件である。
 文章におけるスピードとは、各スピードではなく、あくまでも読むスピードだ。
 やたら漢字を使いすぎると、読む人に過度のストレスを感じさせてしまう。
モノカキをモットーとしている私にとっては頂門の一針という点が多々ありましたが、小説家を目ざす人にとって必読文献だと思った本です。
(2015年8月刊。1400円+税)

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