弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年9月 9日

大江戸・商い白書

日本史(江戸)

(霧山昴)
著者  山室 恭子 、 出版  講談社選書メチエ

 江戸時代の町人の生活の実情を統計処理を通じて明らかにした画期的な本です。一見、無意味に見える数値の山も、きちんとした統計処理をすると、意味のある物語になってくるのですね、、、。業者による地道な統計処理が生きている本になっています。
江戸の町奉行所の調査はすごい。1853年(嘉永6年)に、男性29万5453人、女性27万9474人、合計57万4927人の町人が住んでいるとしている。
ただ、どの町に何人が住んでいるというところまでは分からない。
江戸の店の名前は、1位に伊勢屋、2位に万屋(よろずや)、3位は三河屋。越後屋は6位。屋号の存続年数は、伊勢屋が一番長くて17年、万屋は15年、越後屋は12年。全体の平均は15,7年。要するに、江戸の店は、目まぐるしく参入と退出がくり返され、商人の顔ぶれは、どんどん入れ替わっていた。
店の移動は、第三者への譲渡が5割、身内への相続は1割にみたない。
商人は非血縁原理による承継をメインとしていて、血縁相続による承継は部分的でしかなかった。そして、非血縁者に金銭で譲り渡す譲渡のほうが、承継されたあとの存続年数が長く、安定性も高い。
江戸の店で多いのは、炭薪(すみたきぎ)仲買(なかがい)823件、次いで搗米屋(つきこめや)771件の二つで、3位の両替屋209件を大きく引き離している。 
店の存続期間が50年以上というのは、石灰等仲買と札差。差札については、100年をこえる店も珍しくない。公儀の家臣に顧客を限定した金融業ということで、特殊かつ専門性が高いので、参入障壁は高かった。
米屋や炭屋は、株の譲渡や改廃が頻繁で流動性が激しく、10年ほどで店主がくるくる交代する短命な業種だった。
呉服屋や薬屋は、株があまり移動せず、固定的で、店主も30年ほどじっくり継続する長寿な業種。
札差は、全店舗が浅草の蔵前地区に集中している。
薬種問屋の92%は、日本橋北地区に集中している。『江戸買物獨(ひとり)案内』という本が売られていた。ひとりでも江戸の町で迷わず買い物ができるための初心者向けのガイドブック。すごいですね。こんなガイドブックまであったのですか、、、、。まるで、『地球の歩き方』です。
この本のもとになっているデータは、『江戸商豪商人名データ総覧』です。全7巻データ総数7万4000件。そこからデータを抽出して3939人分の商人の履歴データを整理してつくられたのが本書なのです。実に根気のいる作業でした。それでも、そのおかげで、私たちは江戸の町人生活の実情を統計的にも確認できるわけです。ありがたいことです。
江戸に少しでも関心のある人には必須不可欠な本だと思います。
                            (2015年7月刊。1600円+税)

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